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  今週のお言葉  

 年前の年の瀬に、高校時代の同級生ポン友タカシ君に沼津にあるビクトリーというオーセンティックなバーに連れて行って貰って、初めて知ったアイラ島産のシングルモルトの味。いやはや世の中には、このような甘露なモノが存在していたのかと大いに驚いた次第です。それを期に、一気にシングルモルト・ウィスキーのファンになってしまったのでありました。

 とは云え高価なお酒ですので、普通に晩酌で頂くという訳には参りません。普段はその瓶を眺めるだけで我慢し、ちょっと良い事が有った日などに一杯だけ楽しむ、という呑み方をしております。または月に1回程度ですが、一人で立川のバーにも出掛けます。家と違って氷もグラスも違いますからな。雰囲気も味の一部だとすれば、たまにはバーに出掛けたくなる気持ちもお分かり頂けるでしょう。50歳を越えて隠れ家的な息抜きの場を見いだした、と云ったところでしょうか。

 先日ふらりとバーに出掛けたところ、カウンターの隅で妙齢の女性がお一人で呑んでいる場面に出くわしました。映画であれば「あら、私、こんなモノ頼んでいないわ」 「いえ、あちらのお客様からで御座います」 的な洒落たやりとりが有るやも知れませんが、そのようなアバンチュールめいた出来事に発展する筈も全くなく、黙って一人でゆっくり呑んでいたのであります。

 それにしてもこの女性、相当なピッチで呑んでいます。私がウィスキー・オンザロックスのシングルを一杯呑む間に、少なくともカクテルを3杯呑んでおりましたので、ちょっと異常と云っても過言ではないスピード。しばらくするとその女性、カウンタの中のバーテンダーに向かって、こう云い放ったのでありました。

 酒は味じゃないのよ。酔えればいいの。

 阿川大樹著「終電の神様」(実業之日本社)からのお言葉です。う〜む何とも勿体ない。私は逆にウィスキーにアルコールがあまり含まれていなければ、もっと色々な味が楽しめるのに・・・と常々感じているくらい。と申しますのも、私の適量はウィスキーならシングルで3杯程度ですので、いくらシングルモルトの味や香りを楽しみたくても、それ以上呑むと酔っぱらってしまうのでありますよ。勿論、アルコール香も含めての「味」なのですから、ノンアルコールのウィスキーなど、無いものねだりに過ぎない事は分かってるのですがね。

 結局その日は、アードベック、ボウモア、ラフロイグをそれぞれシングルのオンザロックスで頂いて、1時間程でバーを後にしたのでした。ま、そもそもオーセンティックなバーは、長居をするようなところではありませんからな。(くだん)の妙齢の女性は相変わらずのハイピッチで呑み続けておりましたよ。折角甘露なモノを頂いているのに「酔えればいいの」とはちょっと寂しい話でありますが、ま、それぞれ事情も御座いますからなぁ。

 それにしてもメディア中毒者の私にとって、ポッドキャストも聴かない、DVDも観ない、お喋りもしない、本も読まない60分間というのは非常に稀で、只々ボ〜っと出来るオーセンティックなバーは、まさにリラクゼーションの為の場所なのでありました。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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