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ボウモア12年と
アードベッグ10年 |
般的に趣味とはお金が掛かるものであります。私の場合、大型バイクに乗り、ロードバイクで出掛け、毎月大量の書籍を購入し読むという趣味を持っています。それはそれで楽しいですし、仮にこれらを禁止されたとしたら、私の人生は相当寂しいものになるに違いありません。
それにしても趣味に対してつぎ込む資金は冷静に考えると相当なモノでありまして、少なくともこれ以上趣味を広げないようにしないと、私のささやかなる毎月の小遣いは破綻間違い無しなのであります。本当は、万年筆の蒐集にも興味がありますし、Nゲージ鉄道模型もやってみたいですし、ラジコンヘリの操縦にも挑戦してみたいのであります。しかしこれらの趣味は金食いの代表格。ひとかたならぬ欲望を抑え込み、これらへの興味を禁忌としてきたのでありました。これ以上小遣いへ負担を掛けない為の方策であります。
嗚呼それなのに、我がポン友タカシ君が、私を悪の道に誘うのでありますよ。11月の末に高校時代の恩師K先生を囲んだプチ同窓会に出席した時の事。二次会がお開きになった後、ポン友のタカシ君とその店に居残る形で、二人だけの三次会と洒落込んだのでありました。沼津にあるビクトリーというオーセンティックなバーでのお話です。
元々私はお酒の中ではウィスキーが好き。とは云え特別な知識がある訳でもなく、焼酎やビールや日本酒やワインに比べたらウィスキーの方がマシという程度に過ぎません。嗚呼それなのに、この夜ポン友タカシ君は、アイラ島のシングルモルトの味を私に教えたのでありました。
ウィスキーは、スコッチ、アイリッシュ、アメリカン、カナディアン、ジャパニーズの5つに分類される事はよく知られています。これらの起源は全てケルト人の蒸留技術に遡れるのだそうですが、そのルーツはスコットランドやアイルランドにある事は間違いありますまい。ちなみにポン友タカシ君の教えてくれたアイラ島のウィスキーは、スコッチに分類されます。
スコッチウィスキーは、更にブレンディッドとシングルモルトに分類されます。大麦麦芽のみから作られたモルトウィスキーと、トウモロコシなどの穀類を混ぜて作られたグレーンウィスキーを、呑みやすくブレンドしたモノがブレンディッドウィスキー。対して単一の蒸留所産のモルトウィスキーをシングルモルトと呼びます。呑みやすくブレンドされていない分、野趣溢れるクセのある味になる傾向が強いと云われます。
スコットランドのアイラ島は、トラディショナルな蒸留所が集まっている事で有名です。大麦の麦芽のみを使い、更にピート(泥炭)を焚いて麦芽を乾燥させる事で、スモーキーな香りが強く出るのが特徴。海が近いという事もあるのでしょう、ピートに含まれるヨード臭が強く、非常にクセのあるモルトウィスキーが出来上がるのです。こうした強烈な個性を持ったモルトは、ホワイトホースやカティサークやバランタインといった有名なブレンディッドウィスキーの原酒として、パンチを効かせる為に使われているといいます。
この個性の塊のようなモルトウイスキーを、ブレンドせずにそのまま各蒸留所オリジナルという形で流通させたのが、アイラのシングルモルトであります。ポン友のタカシ君に勧められて呑んだのは、ボウモア12年とアードベッグ10年でありました。好き嫌いがハッキリと分かれると云われるアイラのシングルモルトでありますが、嗚呼、この世にこの様な甘露が存在するのかと、大いに感激したのでありました。こんな美味いモノを口にしたら最後、普通のウィスキーが呑めなくなっちまうじゃねえか。勿論これらのアイラのシングルモルトは高価でありまして、しょっちゅう呑むという訳にもいきません。こんな事なら存在自体を知らない方が幸せだったかも知れない。知ってしまったばかりにアイラのシングルモルトへの想いは昂進するばかりなのであります。
知る悲しみは知らない悲しみより上質なのです。
島地勝彦著「バーカウンターは人生の勉強机である」(阪急コミュニケーションズ)からのお言葉です。もう何も云いますまい。趣味や嗜好というモノは、知らない方が幸せだったという事が往々にして御座います。それにしても何という美味さでしょう。もう後戻りは出来ません。ポン友のタカシ君は、全く罪な男であります。タカシ君、アイラのシングルモルトを教えてくれて有り難う。あ〜あ、私の貧弱なる小遣いの運命や如何に。
【つづく】
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