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乾徳山 恵林寺 |
近のお若い方の自動車離れに、拍車が掛かっているそうであります。免許を取っても車自身を欲しがらないのだそう。私が学生だった頃、つまりは昭和の終わり頃でありますけれども、自分の車を持つ事は、若者にとって明らかに憧れの一つでありました。
私は当時、スバルのサンバートライという軽のワンボックスに乗っておりました。車検1年付きで8万円くらいだったのではないかなぁ。バイトしたお金で一括で購入しました。私はガテン系のバイトを好むタイプでありましたから、夏期・冬期といったまとまった休みに集中的にバイトする事で、割と簡単に手に入れた記憶があります。ま、値段も値段ですしね。4速マニュアルミッションで、エアコンは装備されておりませんでした。今時存在しないよね、あんなボロい車。サイド部分には文字を消した跡が残っておりましたから、元はどこかの会社の営業車だったのかも知れません。
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鴬張りの廊下です |
その頃、私とかみさんは既につきあっておりました。二人とも学生で、極めて貧乏でありましたから、デートと云っても、お洒落なお店になんて出掛けられません。お弁当を作って二人でサンバートライ号に乗って、長野県内の様々な場所に出掛けたものであります。いわゆるドライブデート。お弁当の他に、スーパーでお菓子をたくさん買い込んだ事を思い出します。
さて話は変わります。9月16日(土)は台風接近にともなって、午後から雨の予報。家に居てもつまりませんし、ドライブに出掛ける事に致しました。先週、成田山新勝寺に行ったばかりだというのに、今週もまたまたドライブデートでありますよ。行き先に設定したのは、山梨の塩山にある恵林寺というお寺。臨済宗妙心寺派の禅寺です。特に信心している訳ではなく、単に訪れてみようというだけ。ま、元々の目的がドライブデートでありますから、目的地自身に強いこだわりがあった訳ではありません。
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座敷から中庭を臨む |
それにしても、二人でドライブに出掛けるだけで楽しいなんて、我ながら安上がりな夫婦でありますなぁ。学生の頃から30年も経つのに、遊びに対する基本的なスタンスに、ほとんど変化が無いとは。
中年と呼ばれる年まで生きてきて、むかしを振り返って、若い頃と代わり映えしないなって、ため息つきたくなるのは、それはきっと誰でも同じなのよ。
佐藤正午著「豚を盗む」(岩波書店)からのお言葉です。 三つ子の魂百までと申しますけれども、結局のところ、遊びに関する志向には、いくら齢を重ねても、大きな変化など無いものなのかも知れません。我々夫婦は30年前からずっと代わり映え無く二人でドライブに出掛けていて、それはそれで十分に楽しいですから別に問題は無いのですが、進歩が見られないのも事実でありましょう。
拝観料300円を支払ってお寺の中に入りますと、普通のお寺と何となく造りが異なる事に気付きます。パンフレットには「元徳2年(1330年)甲斐牧ノ庄の地頭を務めていた二階堂氏が、伊勢から夢窓国師を招き、自邸を禅院として、恵林寺を創建した」とあります。鎌倉時代末期の頃でありますな。その時代の地頭ですから、元は武家の屋敷であったという事でしょう。渡り廊下や曲がり階段を多用した複雑な造りになっていたり、廊下が鶯張りだったりするのも、その名残かも知れません。
ちょうど雨が降り始めました。座敷に座って中庭を眺めますと、シトシトと雨が降る音しか聞こえず、何とも気持ちが落ち着きます。ああ、こういう所に来たかったんだよね。結局かみさんと二人、30分以上も、ただ雨を眺めていたのでありました。
すぐに帰宅するのも面白くありませんが、雨の中、他に出掛けるべき観光地も思いつかず、恵林寺を後にして、石和温泉に行ってみる事にしました。折角、山梨まで来ているのですからな。
JR石和温泉駅前の温泉旅館「慶山」に立ち寄ります。ネットの情報によりますと、ここのお風呂は日帰り利用が可能で、源泉掛け流しとの事。透明なサラサラのお湯で、ゆっくり暖まりましたよ。
行きは勝沼ICまで中央道を使いましたが、帰りは少し遠回りをして、御坂から富士吉田に出て、山中湖から道志街道(R413)で帰りました。学生時代に乗っていた軽自動車に比べれば、今乗っているVOXY号はだいぶハイスペックでありますけれども、遊び方それ自身は、根本的には30年間全く進歩していない二人なのでありました。
【つづく】
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