界遺産への登録を果たした霊峰富士。今年の夏山登山シーズンは例年以上の人出だそうですけれども、登山者だけでなくサイクリストにとっても、富士山は特別な場所であります。
マウント富士ヒルクライムレースが行われる富士スバルラインは、いわばロードバイクの聖地。距離24Km、標高差1250mを富士山5合目に向けてひたすら登るだけのこの道は、坂を愛するマゾヒスティックなローディーの心を捉えて離さないのであります。かく云う私も多分に洩れず、何度も登った事が御座います。2010年には実際にレースに参加し、1時間41分台で完走を果たす事が出来ました。
あの頃は良かったなぁ。体重も今と比べてだいぶ軽かったですし、そもそも乗れていました。四捨五入すりゃ40歳で、現在のアラフィフの状況とは大分違います。今スバルラインを登ったら、2時間オーバーはほぼ間違いなさそうですもんね。
この夏スバルラインに行ってみたいような気もします。しかしあまりに遅いタイムになってしまう位なら、金輪際富士山には近寄らず、1時間41分台という自己ベストを幸せな思い出として暖め続けた方が、精神衛生上得策かも知れません。あの頃と同等のペースで登るには、相当な練習と摂生が必要ですもんね。それにしてもあの頃は良かったなぁ。
幸福の思い出ほど幸福を妨げるものはない。
堀辰雄著「風立ちぬ」からのお言葉です。いかんいかん。幸福な思い出に浸っていては、進歩など望めるべくもありません。今は、今出来得る範囲内でのベストを尽くすしか無いのです。タイムが遅くなってしまったのならば、その位置をスタートラインとして切磋琢磨する。そうした努力のみが、かつての登坂タイムを取り戻す唯一の方法なのであります。さ、ウダウダしていないで、思い切ってスバルラインに出掛けてみるとしますかね。
【つづく】
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