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  今週のお言葉  

 車や飛行機や電車に比べると、はなはだ速度が遅く荷物も積めず天候の影響をもろに受けてしまうロードバイクは、移動手段として考えると、非常にプアなメソッドであります。ところが一旦サイクリングに出掛けると、これがとても楽しいのでありますよ。

 美味しいものを食べに行くとか、珍しいものを観に行くといった明確な目的だけでなく、はたまた心肺機能向上とか肉体鍛錬といった体育会系的要素だけでなく、私は自転車で移動する行為そのものが好きなのであります。

 私の友人に「俺の趣味は鈍行電車に乗って音楽を聴く事だ」と公言する男がいます。彼は信越や山陰や九州などのローカル線に乗り車窓の風景を眺めながらiPodで音楽を聴く為だけに、一人で様々な場所に出掛けて行きます。はっきり言って相当な変わり者であります。しかし自転車に乗るようになって彼の気持ちが少し分かってきたような気がするのです。

 旅をある一地に到着するだけの事業にしてしまおうというのは、馬鹿げた損である。

 柳田国男著「豆の葉と太陽」からのお言葉です。自転車とは云え車両を運転している訳ですから、他の自動車や歩行者、路面の状況など様々な情報を収集し、安全を確保し的確な判断を下しながら移動していくのは当然ですが、それ以外にも様々な風景の移り変わりを楽しんでいる自分に気付きます。車やオートバイではスピードが速過ぎて見逃してしまうような些細な事象も、自転車のスピードならばしっかり眼に留まりますしね。

 仲間とサイクリングに出掛けるのもそれはそれで楽しい行為であります。しかし集団について行こうとする意識が強く働いてしまい、道中を楽しむという意味では、ソロサイクリングに勝るものは無いでしょう。勿論ハイキングであれば更に速度が遅い分、もっとじっくり道中を楽しめるかも知れません。しかし私にとって自転車の25Km/h〜30Km/hという移動速度はまさに絶妙でありまして、例えば先週の日曜日は、浅川から陣馬街道和田峠を越えて藤野に下り、甲州街道大垂水峠を越えた後、小仏峠に登り返して浅川沿いに帰ってくるというルートでの自転車散歩を楽しんだのですが、この半日足らずのサイクリングで走行距離は80Km。サイクリングとしては比較的短距離としても、ハイキングでは現実的ではない超長距離であります。あくまでも私にとっての距離感や速度感でありますけれど、自転車は私の遊びのニーズにバッチリの移動手段なのでありますよ。

 重いギア掛けて街道練習する訳でもなく、和田峠でタイムアタックに明け暮れるわけでもなく、何か美味しいものを食べに出掛ける訳でもなく、観光地などを目的地とする訳でもなく、しかもたった独りで、あいつは何を好き好んで自転車で出掛けるのだろう。皆様はそうお考えになるかも知れません。うふふ。私はトコトコと自転車を漕ぎ、風景の移り変わりを楽しむ行為自体が好きなのでありました。我ながら安上がりな男でありますなぁ。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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