様、新美南吉という作家をご存じでしょうか。愛知県半田市出身の童話作家。1913年生まれ〜1943年没。「こんぎつね」「手袋を買いに」などは学校の教科書にも採用されておりますので、知名度は割と高いと思われます。氏の作品の中では殊に「おじいさんのランプ」が好きで、それこそ何度読み返したか分からないくらいです。
田舎に住む貧乏な主人公が、人力車の手伝いで地方都市である大野の街で初めて見た石油ランプ。この明るさに文明の光を感じた主人公は、ランプ売りになる事を決意。この仕事は、暗い夜を過ごしている田舎の人々に、まさに文明の灯を届けると云うもの。誇りを持って働いているうちに、商売は順調に大きくなっていく。ところがある日、主人公は電灯を初めて体験し、その強烈な明るさに圧倒される。まさに新しい時代の電気の灯。同時にそれはランプの時代の終焉を意味する。初めは文明開化を恨んだ主人公だったが、自分がランプ売りになろうと思った頃の心情を思い出し、ランプ売りという商売を自ら畳む決意を下す。
大手都銀が一斉にリストラ策を打ち出して、銀行員の方の転職活動が活発化しているそうであります。ゼロ金利時代を迎え、銀行の収益は低下し続けておりましたし、ネットバンキング等のIT技術の台頭や、投資信託のコンピュータプログラムによる自動運用はかなり前から行われていますし、駅前の一等地にオフィスを構えるビジネスモデルを守る必要がなくなりつつある事は、ずっと以前から分かっていた筈だと思うのです。
にも関わらず、高学歴の文系大卒者のメガバンク人気はつい昨年まで続いておりました。行員である自分たちは転職活動を進めつつも、新卒者に対してそうした情勢についてのアナウンスをせずに、平然と採用面接を行っていたとすれば、法的な問題はともかく、社会道義上、許し難い事のようにも思えます。
盛者必衰の理をあらわす。私の商売にしても、年々仕様的変化が大きくなって来ています。いつまでこの商売を続けるかは決めておりませんけれども、同じ事を同じようにやっていては、簡単に淘汰されてしまうでしょう。おそらくそれはどんな仕事でもそうだと思います。社会全体が経済的にも技術的にも成長を続けている訳ですからね。
銀行は潰れないと根拠無しに信じて働いていた楽観者たちが、今になって大騒ぎしているというだけの話。私のような零細な自営業者から見れば、永遠の繁栄を信じていた楽観性を羨ましく思う気持ちと、急に冷や水を浴びせられた様子を哀れむ気持ちとが半々で、ちょっと複雑な気分なのでありました。
【つづく】
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