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  新美南吉記念館に行ってきました  

 お出掛け

新美南吉記念館
「手袋を買いに」の像

 みなさま、新美南吉(にいみなんきち)という作家をご存じでしょうか。「ごんぎつね」や「手袋を買いに」や「おぢいさんのランプ」の作者であります。私は以前より新美南吉の大ファンで、氏の著作は全て所有し、内容を暗記してしまう程、繰り返し読んでおります。

 今から十数年前、私がまだサラリーマンをしていた頃、私はTさんという方の部下として働いておりました。ある日Tさんと雑談をしていた折、棺桶の中に何か一つだけ入れて貰えるとしたら何を入れて欲しいかという話題が挙がりました。いわゆる The bucket list ってヤツであります。どういう経緯でそういう話になったのかは覚えていないのですが、そのとき私は、棺桶には是非 新美南吉の本を入れて欲しいと考えている旨を、お伝えしたのを記憶しております。

 それからしばらくしてTさんから、新美南吉の「おぢいさんのランプ」の初版復刻本を頂きました。装丁は、かの棟方志功(むなかたしこう)であります。新美南吉の初版本は大変貴重で、当の新美南吉記念館でも展示にはレプリカを使用している程。頂いたのは昭和49年にほるぷ出版から復刻されたもので、復刻本と云えど手に入れるのが困難な、稀少価値の高いモノです。この本は今でも私の大切な宝物であります。

新美南吉記念館
「デンデンムシ ノ カナシミ」の像

 Tさんは理想の上司でありました。社会人として必要な仕事の流儀に関する全ての事をTさんから教わったと云っても過言ではありません。Tさんに一人前にして頂いたようなものであります。Tさんは私の上司であるとともに、私の高校の20年上の大先輩でもあります。おぢいさんのランプという宝物も頂きました。ところが、自営業の立ち上げでバタバタしているうちに、こんな大きな恩義のあるTさんに実に10年以上もお会いしないまま月日が流れてしまっておりました。

 一度疎遠になってしまうと、中々こちらからご連絡申し上げるきっかけが掴めないものであります。私は不義理を気にしつつも、具体的なアクションに移れないでいました。年賀状は毎年お出ししておりました。しかし、お会いするタイミングを逸してしまっていたのであります。

 今年の3月に、突然Tさんが私にメールを下さいました。私からの年賀状に書いてあったメールアドレスをご覧になったのでしょう。Tさんからのメールの内容は以下のようなものでした。

 しばらく会っていないが元気だろうか。確か貴君が新美南吉のファンだったと記憶している。今度、静岡市立美術館で、新美南吉生誕百年記念展示を行なうそうだ。ファンの貴君なら既に行ったかも知れないが、もしまだ見ていないなら行ってみたらどうか。

 Tさんからのメールの文面には、その暖かいお人柄が滲んでいるようでした。私は再びTさんに連絡出来る事が嬉しくて嬉しくて、すぐにTさんに電話をし、十数年間もの不義理をお詫びしました。

名鉄フェリーで伊良湖岬を目指す
後方の遠景は、師崎港

 それからしばらくしてTさんに直接お会いする機会も得ました。十何年かぶりでTさん宅にお邪魔したのであります。訪問は僅かな時間に過ぎませんでしたが、Tさんも奥様もお変わりありませんでした。本当に懐かしく楽しい時間を過ごさせて頂きました。お二人は相変わらず仲睦まじく、私は常々、我々もTさん夫妻のような仲の良い夫婦になりたいものだと考えていた事を思い出しました。Tさんは会社の上司であり、高校の先輩であり、そして我々夫婦の目標でもあったのです。

 教えて頂いた静岡市立美術館の特別展は3月末日までの開催で、仕事の都合で結局行く事が出来ませんでした。しかし今年は新美南吉生誕百年という記念の年です。Tさんからメールを頂いた事も、何かの啓示かも知れぬと感じました。どうしても本家本元の愛知県半田市の新美南吉記念館に行きたいと思いました。日野から半田は相当に遠く、ちょいと見物に行こうか、という距離ではありません。そこで今回は、かみさんと二人で一泊で出掛ける事に致しました。

 朝5時前に東京都日野市の自宅を出て、中央道を西に向かってひた走ります。神奈川県、山梨県、長野県、岐阜県を経て、愛知県に入り、小牧ジャンクションまではさしたる渋滞もなく順調にきたのですが、名神から名古屋高速に入り、市内を抜ける際に大渋滞につかまってしまいました。結局半田到着は午後1時頃。実に8時間ものロング・ドライブであります。ま、ゴールデンウィークですから、名古屋市内の渋滞も当然と云えば当然なのですがね。

 新美南吉は児童文学を主に執筆していた事もあり、更に氏の代表的な作品の幾つかが小学校の教科書に採用されたりした関係で、子供の来館者も比較的多いのでしょう。故に展示も子供にも分かりやすいように、当時の半田の風俗や、物語の風景をジオラマで表現したモノなどが中心です。しかし子供向け以外にも、新美南吉の個人的な書簡や、直筆原稿、生い立ちの記録など、他所では見る事の出来ない貴重な資料展示もたくさんあり、大変興味深く見学する事が出来ました。新美南吉記念館 編集の「生誕百年新美南吉」という小冊子や、アニメ「おぢいさんのランプ」のDVDなど、ここでしか買えない品も手に入れる事が出来ました。

 折角遠方まで参りましたので、この後、焼き物で有名な常滑(とこなめ)に足を延ばしてみる事にしました。と云っても車で片道20分程なのですがね。普段使いの食器などを買い求め、宿に入ったのは夕方6時頃。長距離ドライブは相当キツく、食事をしてお風呂に入ったら、私もかみさんもバタンキューでありました。

 翌朝は朝食後にすぐに出発し、知多半島を南下。師崎(もろざき)港からは名鉄フェリーで渥美半島の伊良湖(いらご)岬に渡り、浜松インター経由で東名高速を通って帰って参りました。総走行距離800Km。新美南吉記念館と常滑セラモール以外はほとんど車で走りっ放しという強行軍でありましたが、車中でかみさんと色々な話が出来ましたし、かなり楽しめた旅行でありました。

 そもそもTさんからご連絡を頂かなければ、そしてそこで新美南吉生誕百年の話を聞かなければ、このタイミングで半田に行く事など無かったでありましょう。そう考えると縁って本当に不思議なものであると強く感じずにはいられません。

 私のようなコアなファンの半田(もうで)は当然として、まずはみなさまには、新美南吉の著作を読んでみる事をお勧めしたいと思います。没後50年が経過しており、著作権は既に消滅しています。ほとんどの作品は青空文庫から無料でダウンロード可能ですので、是非ともお試し下さい。児童文学の形式を取っていますが、実際は大人が十分に楽しめる高度な文学作品群であります。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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