今も昔も児童書は高価なもの。特に私が小学校低学年の頃といえば父は30歳代母は20歳代だった訳で、最もお金が無く生活が苦しい世代であった筈です。今考えれば、若い彼らにとって私は高価な児童書をねだってばかりいるやっかいな息子であったに違いありません。 小学校低学年の頃だと思うのですが、当時、本屋さんが小学校に来て指定図書や推薦図書をセールスする、というイベントが行われていました。空き教室にサンプルとして本が並べられていて、クラスと名前が書かれた注文用紙の欲しい書籍の欄に丸を付けて提出すると、後日、学校に本が届くという仕組みだったと記憶しています。こうした即売会的イベントは、父兄参観日に行われていました。今考えると中々上手い商売でありますなぁ。 私は小学校に上がったばかりの頃から、新美南吉に傾倒しておりました。「ごんぎつね」や「おじいさんのランプ」「手袋を買いに」などの絵本を、内容を暗唱出来るくらい何度も何度も読んでいたのであります。しかし所詮は絵本に過ぎず、収録されている物語は当然限られています。小学低学年だというのに、生意気にも、この新美南吉という作者の作品を片っ端から読んでみたいという欲求に駆られていたのでありました。 即売会ブースで新美南吉作品を探したところ、それはそれは立派な装丁の「新美南吉童話全集」が置いてありました。私は直感的に、これだ、と思いました。書籍本体は黒い布張りの四六判ハードカバーで、きちんと箱に入っていたのを今でも覚えております。小学生の欲しがるものとしては相当高価であったと思いますが、母に頼み込んで、この全集の第一巻「ごんぎつね」を買って貰う事に成功したのであります。この本は私の宝物となりました。小学校時代はそれこそ擦り切れるほど何度も何度も読んだものであります。 新美南吉は1942年(昭和17年)に29歳で 現在では様々な形態で読む事の出来る新美南吉作品。事実、青空文庫を中心にほぼ全作品を何度も再読しておりますけれども、小学1年生の時に読んだ、あの豪華装丁本をもう一度読んでみたいという欲求はずっと抱き続けておりました。幼少期の宝物であったこの本ですが、実家の引っ越しなどを経て紛失してしまっていたのであります。箱の状態は忘れてしまいましたけれども、黒い布張りの丁寧な装丁は、40年が経過した今でもしっかり記憶に残っておりました。 しばらく前に、古本屋で「新美南吉童話全集第一巻ごんぎつね」(大日本図書)を見つけました。1970年(昭和45年)8月20日発行の第22版です。年代からして、私が以前所有していたものと同じ位の版と思われます。それにしても懐かしい!40年以上の時を経て、あの頃の記憶が一気に 古本屋のおじさんの話によると、大日本図書版の新美南吉童話全集は全3巻存在するとの事。当時私が所有していたのは第一巻だけでしたけれども、こうなれば、第二巻、第三巻も是非とも読んでみたいものです。 最近、古本屋で、念願の「新美南吉童話全集第二巻おじいさんのランプ」(大日本図書)、「新美南吉童話全集第三巻うた時計」(大日本図書)を発見しました。第二巻は1974年(昭和49年)の第25版、第三巻は1972年(昭和47年)の第19版であります。 ようやく全3巻が揃った訳で、感動もひとしお。50歳を前にして40数年来の夢がやっと叶ったのでありました。通読してみて思ったのですが、新美南吉って、やっぱホントに素晴らしいですね。古い本ですけれども、これからもずっと大切にしようと思います。
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