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辰野勇著「軌跡」(mont-bell BOOKS) |
近、「辰野勇のボイスコラム『モンベル・アウトワード・コラム』」というポッドキャスト番組をよく聴いております。辰野勇氏は、アウトドア総合メーカーである
mont-bell の創業者でありますよ。初回から聴き始めて、現在は2015年3月配信分を聴いているところなのでありますが、雑誌「岳人」の出版を中日新聞社から引き継いで
mont-bell に出版事業を立ち上げたのに伴い、辰野勇氏が mont-bell の広報誌に寄稿していたエッセイをまとめる形で「軌跡」というハードカバーを出版する事になった事を知りました。
山が好きでそれを一生の仕事に選んだ氏のお話は含蓄に富み、本当に面白い。是非ともこの辰野勇著「軌跡」(mont-bell BOOKS)を読んでみたいと考えたのであります。
2014年11月に初版発行のこの本は、現在では手に入りにくい状態になっておりました。大手出版社刊ではなく、立ち上げたばかりの mont-bell
BOOKS の取り扱いという事もあって適正な在庫量が流通していないのかも知れません。Amazonマーケットプレイスを検索したところ、何冊か古書の取り扱いがあったのを幸い、早速注文したのであります。
一般的な四六判よりも一回り大きな本が宅配便で届きました。古書とは云え非常に状態が良く、帯こそありませんでしたけれども本自体は新品同様であります。送り状を読んでみたところ「帯なし
カバーに使用感はありません。見開きに贈呈者への著者のサインがあります。中はきれいな状態です。丁寧に梱包して発送します」と書いてあります。購入時にはこうしたコメントに気付かずに注文したのでしたが、送られてきた古書は、どうやらサイン本のようです。
ま、最近は書店でサイン会を行った後、著者に余分にサインして貰って、そのサイン入りの本をその書店で新品発売する事があり、故にサイン本が古書として流通するのは以前に比べればそれほど珍しい事ではなくなりつつあります。私も何度か、古書を買ったらサイン本だった経験が御座います。
とはいえ送り状には、「贈呈者への著者のサインがあり」と明記されていて、いわゆる「○○さんへ」と書かれている本であるようなのです。サインの上、わざわざ宛名を書いて貰うような場面を考えれば、所有者は、その本や著者に相当な思い入れがある事が想像されましょう。そうした、いわば愛蔵品が古書市場に出回るとは、どういった経緯なのでありましょうか。
本を開いてみますと、2016年10月12日の日付と共に、「生島ヒロシ様」と墨書されています。ん?カタカナでヒロシ?これはもしかして、フリーアナウンサーの生島ヒロシ氏に贈られたモノでは?ちょっとネットで調べてみますと、やはりそのようです。2016年10月29日(土)放送のTBSラジオ「生島ヒロシのサタデー一直線」という番組のゲストとしてモンベル代表の辰野勇氏が出演していて、その際、氏の著作「軌跡」を手にして笑顔を振りまく生島ヒロシ氏の写真がネットにアップされているではありませんか!日付のずれは収録日と放送日の違いによるものでしょう。生島ヒロシ氏は、辰野勇氏から贈呈されたサイン本を、よりによって古書市場に流していたのであります。
仮に生島ヒロシ氏に悪意があった訳ではなくて、処分する書籍に偶然紛れ込んでしまったのだとしても、やはり有名人である自分への宛名が書いてある以上、こうした贈呈本の扱いには細心の注意が必要である事に間違いないでしょう。この事を著者である辰野勇氏が知ったらガッカリするだろうなぁ。
新品を買おうとしたら品切れで、仕方が無く古書をネットで注文したら、それが著者の辰野勇氏からフリーアナウンサーの生島ヒロシ氏に贈呈されたものであったという、類希なる珍奇なお話でありました。今まで数限りなく本を買ってきましたが、こんな偶然は初めての経験です。あ〜、ビックリした。それにしても、これって稀少本として値がつくんじゃね?
【つづく】
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