が幼少の頃、だいたい昭和40年代後半頃のお話ですが、スマホはおろか携帯電話など一切存在しておりませんでしたし、ネットフリックスなど当然として、そもそも家庭用録画機すらありませんでした。今と比べると通信手段も娯楽も限られていて、利便性の低い生活を強いられていた訳です。ウォシュレットなど想像も出来ず、うちは小学生の間はくみ取り便所でした。だからと云って私の家が特に貧乏だった訳でもなく、これでもごく平均的な家庭だったと思います。
当時、私の叔父は私の祖父母と同居していて今風に云うと割と実家が太い状態だった事もあるのですが、結婚してハワイオアフ島に新婚旅行に出掛けました。それが近所で噂になるほど、当時としてはリッチな旅行だったようです。
昭和40年代の日本は、現在の平均的な暮らしに比べれば、明らかに貧しく、非文化的な生活だった事は間違いないでしょう。でも将来に不安を感じて結婚しないとか子供を作らないとかいう話はとんと聞きませんでした。それどころか、来年再来年と時間を経れば収入は必ず上がっていくと皆が信じていたように思います。父母は、当時は現金一括で買えなくても、特にビビることなく、テレビも車も月賦で買っておりました。その頃私は小学校低学年でしたから、具体的な月賦の金利は知らないのでありますけれども、郵便局の定額貯金の金利が5%を超えていたと記憶しています。今考えれば相当な高金利時代だった訳ですが、少なくとも金利負担の事など深く考えずに「月賦さえ組めれば、どうにかなるさ」という明るい展望をもって生活していたように思うのです。多くの人が20代のうちに結婚していて、30歳を超えて独身で居ると「変わり者」と云われたものでありました。
人間の感性というのは、現在の絶対値ではなく、現在の変化率に支配されている。これは、たとえるなら、速度は体感できないが、加速度は感じることができるのと似ている。
森博嗣著「日常のフローチャート」(KKベストセラーズ)からのお言葉です。今の日本はまさにこの「加速度」が感じられない世界。政府は少子化対策を進めるべく、様々な子育て支援策に血税を投入したり、現金をばらまいたりしておりますけれども、結局「加速度」が感じられない以上、お若い人は将来不安を解消する為に、こうしたお金を貯蓄に回してしまうのは必至。お金が消費に回らなければ景気が良くなる筈がありません。
まあ、百歩譲って、こうした個人貯蓄が金融機関を経由して財政投融資に回れば、まだ国内にお金が還流し景気向上に寄与していく訳ですけれども、政府の勧める積み立てNISAの多くは米国インデックスファンドへの投資に回っていて、これって折角の国内所得を海外にタレ流しているのに等しい行為ではありませんか。少なくともNISAの投資先を国内に限定する等の方策は取れないのでしょうか。これで国内景気の高揚など出来る筈がありません。
先日、石破首相は「2040年までに一人当たりのGDPを1.5倍にする」事を夏の参院選の公約に掲げていたようでありますけれども、実現の為の根拠も無いようですし、任期を遙かに超えた期間の約束を選挙の公約に据える事自体非常識と云わざるを得ません。15年間で1.5倍にするには複利で年3%を維持する必要があります。少なくとも2年連続でGDP成長率3%を維持する約束をすべきでありましょう。任期中に結果が確認出来ない約束なんぞ、信じろと云う方が無理でありましょう。
加速度を感じる事の出来るくらいの「勢い」の為には、消費税や社会保険料等のブレーキの解除が必要なのは自明。配当所得の税率は低く抑えているのに対し、普く消費税を掛け所得税や社会保険料として個人所得にガバチョと課税する姿勢は、税による富の再分配の法則から大きく逸脱した、一部の不労所得生活者を優遇し、実際に額に汗し働いている人の負担を不当に上げていると云わざるを得ません。トランプ大統領の報復関税にやいのやいの云う前に、石破さんには同じような仕組みである消費税等のブレーキ解除を是非ともお願いしたいものであります。
【来週をお楽しみに】
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