人買いという言葉を最近よく耳にします。子供の頃や学生時代には欲しくても高価くて揃えられなかったものを、一挙に全種類購入する事。大人買いと聞くと無駄遣いを連想してしまいがちでありますけれども、良いじゃん俺もう57歳だし、欲しいものを買わずに死んじゃったら意味無いしね。
中学生の頃、團伊玖磨の随筆「パイプのけむり」シリーズにハマりました。今は廃刊になってしまった朝日グラフに、毎回連載されていたエッセイです。朝日グラフに掲載されていた文をリアルタイムで読んだのではなく、当時は、朝日新聞出版の文庫版で読んだのでありました。
文体は硬いですし、旧字体が多用されておりましたから、今考えれば中学生の癖にこんなものを読んでいるなんて、少々生意気な気も致しますけれども、そこはほら、ちょっと背伸びするのが格好良いと考える年頃でありますからな。
当時は全巻制覇しようなどという考えは毛頭無く、何しろ中学生の限られた小遣いで購入するには新刊は些か高価でありましたから、財布に余裕があってかつ本屋で続刊を見つけた時のみ、買っていたのでありました。
先日書庫を整理しておりましたら、随筆集「パイプのけむり」シリーズが出て参りました。朝日新聞社の文庫版であります。嗚呼懐かしや。パラパラとページを繰ってみますと、中学生の頃の記憶が蘇って参ります。蔵書は次の7冊御座いました。
■パイプのけむり
■続パイプのけむり
■続々パイプのけむり
■又パイプのけむり
■又々パイプのけむり
■重ねてパイプのけむり
■なおかつパイプのけむり
実は私、今まで大いなる勘違いをしておりまして、「パイプのけむり」シリーズはこれで全てだと、永きにわたって思い込んでいたのでした。今回の蔵書の整理がきっかけで、これらの7冊を通読してみようと思い立っち、ふと、「はて、本当にこのシリーズは7冊しか無いのかしらん」という疑問が頭をもたげたのであります。
ウィキペディアに当たってみますと、なんと!「パイプのけむり」シリーズは全27巻だというではありませんか!!
【01】 パイプのけむり
【02】 続パイプのけむり
【03】 続々パイプのけむり
【04】 又パイプのけむり
【05】 又々パイプのけむり
【06】 まだパイプのけむり
【07】 まだまだパイプのけむり
【08】 も一つパイプのけむり
【09】 なおパイプのけむり
【10】 なおなおパイプのけむり
【11】 重ねてパイプのけむり
【12】 重ね重ねパイプのけむり
【13】 なおかつパイプのけむり
【14】 またしてパイプのけむり
【15】 さてパイプのけむり
【16】 さてさてパイプのけむり
【17】 ひねもすパイプのけむり
【18】 よもすがらパイプのけむり
【19】 明けてもパイプのけむり
【20】 暮れてもパイプのけむり
【21】 晴れてもパイプのけむり
【22】 降ってもパイプのけむり
【23】 さわやかパイプのけむり
【24】 じわじわパイプのけむり
【25】 どっこいパイプのけむり
【26】 しっとりパイプのけむり
【27】 さよならパイプのけむり
17巻目までは文庫化されておりますが、18巻以降は文庫化すらされておらず単行本しか存在しないことも分かりました。勿論全て絶版です。今のお若い方が好んで読むような内容ではありませんし、そもそも旧字体が多く使われていて比較的読みにくい上に、團伊玖磨氏はこの随筆の中で、「私は略字を好まない」
とハッキリ公言されていらっしゃいますから、読みやすく新字体に書き換えられた新装版が刊行される事は好まないでしょうし、もしかしたらそうした旨を遺言されていらっしゃった可能性もあります。そう致しますと今後も再販は望めそうにありません。氏は2001年にお亡くなりになっており、既に没後20年以上経っておりますから、全巻を揃えるのであれば、そろそろ今が最後のチャンスなのかも知れません。
馴染みの古書店に声を掛けてみましたところ、しばらくして連絡があり、私の既に持っている7冊を除く、残りの20冊を集めてくれたというではありませんか!
ほしかったものが全部、ここにあった。
蒼井ブルー著「こんな日のきみには花が似合う」(NHK出版)からのお言葉です。まさに大人買いであります。20冊で約3万円弱も掛かってしまいましたが、欲しかったんだもん、仕方ないよネ。絶版から20年以上ですので、散逸を防ぐためにも有意義な買い物であったと自負しております。あ、購入価格については、かみさんには内緒ですからな。薄汚れた古本に3万円支払ったなんて、ちょっと言い出せませんやな。
元々所有していたモノも含めて第1巻から再読を始めていて、現在は8巻目の「も一つパイプのけむり」を読んでいるところ。自分で自分にクリスマスプレゼントを贈った形です。年末年始は、まさに「パイプのけむり」三昧となりそうでありま〜す。
【つづく】
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