は自営業者でありまして、特に一年前の春、私の仕事はコロナ禍の影響を強く受けました。7週間にも亘って完全休業を余儀なくされたのであります。
今年に入ってワクチンが輸入され始め、状況は一気に好転するかなと淡い期待を抱いたのですが、結局はワクチンが行き渡る前にいわゆる感染第4波が来てしまいました。巷では、緊急事態宣言を長く継続し過ぎてコロナ疲れが出ているのだ、とも評されています。旅行もダメ、居酒屋もダメ、花見もダメでは鬱憤も溜まろうというもの。テレビでは酔って大騒ぎする若者の姿なども目にいたします。
米国では、ワクチンの接種がある程度進むにつれて感染者が激減し始めました。研究室レベルではなく臨床においてメッセンジャーRNA型のワクチンを使うのは人類にとって初めての経験ですし、米国にしてもあくまで緊急避難的に認可したに過ぎませんので、長期的な体への影響については不安が完全にゼロという訳ではありません。しかしファイザーにしろモデルナにしろアストラゼネカにしろ、ワクチンは間違いなく効いているのです。
ワクチンを自国内で開発・製造出来ない国が先進国を名乗って良いかという論議は別の機会に回すとして、何も分からず不安だけで満たされていた一年前とは、我々を取り巻く状況は明らかに変わりました。あと数ヶ月、遅くとも年内一杯には接種希望者全員の接種は完了するでしょう。変異株に対抗する為に毎年予防接種をする必要があるかも知れませんが、当面のコロナウィルスとの戦いのゴールは見えたのです。何故あと少しの我慢が出来ないのでしょうか。
確かにお若い方の重症化率は低いですし、サラリーマンの方なら罹っても2週間程会社を休めばそれで良いでしょう。しかし我々自営業者は、休んでいる間は一切の収入を失うのです。いやそれどころか2週間も事業が機能しなくなれば、その間に多くの顧客を失う事にもなりかねません。もしそうなれば、これらの損失を取り戻すのは年単位となります。重症化せずとも我々自営業者にとってコロナへの罹患は、経済的な致命傷となり得るのです。異常なほど一日に何度も手を洗い、きっちりマスクをするのは臆病に過ぎると嗤う方もいるかも知れません。しかし万が一にも罹患する訳にはいけない事情があるのです。
臆病は、理性の鳴らす警鐘だ。
西條奈加著「心淋し川」(集英社)からのお言葉です。俺はもうこんな自粛生活には我慢が出来ないんだ。だからマスクを外して居酒屋で楽しくやるよ。それでコロナ陽性になればそれは俺の責任だし、俺が入院すれば良いだろう。こうした論理は、まるで、俺は速度制限なんて我慢が出来ないんだ。だからアクセル踏んでビュンビュン疾ばすよ。それで事故れば俺の責任だし、俺が入院すれば良いだろう、というのと同じ事。周りに多大な迷惑を掛ける事に変わりはありませんし、道路交通法を鑑みれば、罰を受けてしかるべき行為である事も分かる筈。
伏してお願い申し上げる。居酒屋や食堂で飲食の為にマスクを外す時は、喋らないで頂けますか。川原でマスク外してバーベキューするのはやめて頂けませんか。そのあなたの行為は、市街地を時速150Kmで暴走するのと本質的には同じである事を理解して頂きたいのです。いや、まじで云ってるんだってば。
【つづく】
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