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  今週のお言葉  

 のお若い方はご存じないと思いますが、私がまだ若かりし頃、待ち合わせ場所として、よく喫茶店を使ったものであります。携帯電話が存在しなかった時代、待ち合わせの約束は今とは比較にならない程の重みを持っておりました。

 「ごめんごめん、ちょっと遅れそうなんで、先に行ってて」
 「了解、近くにきたらまた連絡して。迎えに出るから」

 なんてやりとりは一切出来ませんでした。約束の時刻に遅れる事を、出先にいる人に伝える手段が無かったのです。約束の時間になっても相手が現れないので、何らかの連絡が入っていないか自身の留守番電話を何度も確認したりしたものです。仮に留守録メッセージが入っていたとしても、そのレスポンスを送る方法が無いのですから、結局は待ち続けるしかなかったのであります。

 こうした事態を見越して、重要な待ち合わせでは喫茶店を用いたものでした。「お客様で○○様はいらっしゃいますか?△△様からお電話が入っております」と呼び出して貰えるからです。当時の喫茶店は、私にとって読書をするところでもコーヒーを飲むところでもなく、多くの場合、伝言機能付きの待ち合わせの場所として、活用しておりました。当時は煙草を吸わない人も、喫茶店のマッチを貰って帰ったものです。そうです。マッチには喫茶店の電話番号が書いてありましたので、マッチさえ持っていれば次回の待ち合わせ場所に使えます。マッチは喫茶店にとって非常に有効な宣伝ツールでもあった訳です。

 昭和の末頃と申しますと1980年代後半、今から30年ちょっと前に、喫茶店のコーヒーは400円〜600円程でした。当時の平均所得を考えれば、たいそう高価な飲み物だった訳ですが、これには通信の利便性への対価も含まれていたのだと思います。

 連絡手段という意味では、携帯電話の普及により、状況は一変しました。待ち合わせの時刻や場所は、出先で簡単に変更出来るようになりましたし、知らない場所に出掛けるにも事前に地図を印刷して携行する事などなくなり、その場でGoogleマップを開けば簡単に目的地までナビゲーションされるようになりました。地球の歩き方や、るるぶを片手にお店を探し歩く観光客の姿もとんと目にしなくなりましたしネ。スマートフォンさえあれば、すぐに連絡がつき、どこへでも行け、何でも調べられる世の中になりました。かく云う私も、もはやスマートフォン無しの生活など考えられません。

 現代の怪談を構成する要素の一つに圏外があります。

 宇佐見りん著「かか」(河出書房新社)からのお言葉です。GoogleマップはGPSの位置データを元にナビゲーションサービスを提供してくれますが、ここで忘れてはならないのは、GPSは現在地の緯度と経度と標高を提供してくれるに過ぎない事実であります。通信電波が入らない状態、いわゆる圏外になってしまうと、肝心の地図データがダウンロード出来なくなりますからGoogleマップは機能しません。それどころか、電話も、メールも、LINEも、全て使用不能となってしまいます。

 インフラとしての携帯ネットワークは非常に便利で、我々はそれに依存しきっておりますけれども、ちょっとした停電で基地局がダウンしただけで、全ての機能は失われてしまいます。ネットワーク時代において「圏外」という言葉は、まさに怪談に等しいというお話で御座いました。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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