ラリーマンを辞めて自営業者として独立して丸17年が経過し、お陰様で18年目に突入致しました。私のささやかなオフィス「万願寺基地」は、自宅からスクータで10分弱の距離。世のお父っつぁん達が汗だくになって満員電車に乗って頑張っていらっしゃるのを見ますと、何か申し訳ないような気すらして参ります。
都内に住みながら満員電車とは無縁な生活を送れるというのは、ある意味、希有で幸せな事でありましょう。今となっては、背広を着て満員電車に乗ってオフィスに出掛けていたあの頃、馬車馬のように働き海外へもしょっちゅう行き来していたあの時代が、夢か何かのように思い出されます。
平成の前半は、働き方改革なんて言葉すら存在しておりませんでした。今考えれば、相当にブラックな働き方をしていたと思うのですが、当時はそれが当たり前の事でしたので、別にさしたる痛痒も感じていなかったのであります。月に120時間以上の残業なんて普通でしたし、一週間で3回もソウルに出張した事もありました。生き急ぐというか、精神的には余裕のない生活を送っていた事を思い出します。そしてあの頃は、それが普通の社会人であり、普通の人生であると信じていたのであります。
今のお若い方は理解しかねるかも知れませんけれども、別に私が特別だった訳ではありません。みんな、そういう勢いで仕事をしていたと思います。今となっては、そういう時代だったとしか云いようが無い訳ですが。
普段スーツを身に纏う機会はほとんどない。あってもせいぜい年に二度か三度というところだ。
村上春樹著「一人称単数」(文藝春秋)からのお言葉です。自営業者として独立した最大のメリットは、人間らしい時間を持てるようになった事でありましょう。好きなだけ本を読み、観たい時にDVDを観て、毎晩かみさんと家カフェを楽しみ、海外はおろか出張など皆無で、満員電車とも無縁。自らが厳選した気の合う人たちと共に楽しく働き、好きな仕事で収益を得る。17年前に独立を決断しなかったらどうなっていただろう、と考える事は時々ありますけれども、独立自体を悔いた事は只の一度もありません。
私ももうすぐ55歳。年齢から云っても、これから別の職業に移る事は無いでしょう。今のままノンビリと仕事を続けようと考えております。
【つづく】
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