はあまり夢を見ません。もしかしたら睡眠中にはしっかり夢を見ていて、目が覚めるとそれを忘れてしまうだけなのかも知れませんけれど、結果として、目覚めた時に夢を覚えているのは、月に1回程度です。
大概の場合、私の見る夢はイライラ系であります。夢の中で私は大学生で、非常に古くて汚い学生寮の一室で暮らしているのですけれども、出掛けようとするとどこを探してもバイクの鍵が見つからない。鍵がないと出掛けられず、大変困ります。万年床をめくったり、引き出しを隅々まで見直したりと、何度も何度も探すのですが、どうしても見つからず、刻一刻と約束の時間は迫ります。探している最中に雨が降ってきて洗濯物を取り込まなければならなくなったり、新聞の集金の人が来たり、邪魔ばかり入ります。途中で異変に気付き、これが夢の中の出来事であると関知出来るのですが、焦りの気持ちが強過ぎて、異変に気付いた事すら忘れてしまい、イライラしながら再び鍵を探してしまうのでありました。
はよ、目、覚まそ。どないしたら目、覚めるんやろ。
大島真寿美著「渦・妹背山婦女庭訓・魂結び」(文藝春秋)からのお言葉です。夢とは不思議なものですなぁ。夢の中で、これが夢だと気付く夢を見ていたりと、再帰的な構造の夢をみる事もあり、そうすると、いざ目が覚めた際に、本当に覚醒したのか、夢から覚めたという夢を見ているだけなのかが一瞬分からなくなる事があって、認知症とは、こうした混沌の中へ意識が埋没していく状態の事なのかも知れないな、と想像してみたりしたのでありました。
【つづく】
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