日、高幡不動駅前を犬のこむぎと歩いておりますと、正面からこちらに向かって歩いてきたサラリーマン風の方が、「あ、お久しぶりです！すっかりご無沙汰してしまって申し訳ありません！」と声を掛けてくるではありませんか。はて、どこのどなただったか、とんと思い出す事が出来ません。私も50歳を越えてから、人の名前が出てこない場面がちらほら散見されますけれども、全く覚えがないというのも珍しい。私の脳もだいぶ退化が進んでしまったようであります。

　いくら思い出せないとは云え、相手は私に向かって快活に話し掛けて下さっている訳で、まさか無視する訳にも参りません。そこで私も「やあ、お久しぶりです」などと誤魔化して片手を上げつつ、一生懸命、記憶を辿ってみたのであります。

　あれ、相手の方は、手を上げて挨拶をした私の方を怪訝そうな目で見つつ、「例の件につきましては、お陰様で無事引っ越しも済みました」などと話し掛けてきます。引っ越し？何か変だゾ？？？

　ふと見ると、耳にワイヤレス・イヤホンをしているではありませんか。しまった！！彼は私に話し掛けたのではなくて、誰かとハンズフリーで電話をしていたのだ！！！状況が分かった途端、あまりの恥ずかしさに息が苦しくなったような気すら致します。

　呼吸が浅くなると、心拍数も比例して上がってしまう。

　四角(よすみ)大輔著「バックパッキング登山紀行」（えい出版）からのお言葉です。何事も無かったかのように振る舞いつつも、その場からそそくさと逃げた私でありました。それにしても、歩きながらワイヤレス・イヤホンでハンズフリー通話をされたら、誰でも間違っちゃうんじゃないかしらん。電話をする際に受話器やスマホを耳に当てるという行為も、行動様式として必要な事なんだなと痛感した次第であります。あ〜恥ずかしかった〜。

【つづく】

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