子決済の普及に関して、日本は他国に比べて遅れを取っているという意見をよく聞きます。現行システムのセキュリティレベルの低さはともかくとしても、QRコードをスマホで読みとるだけで支払いが完了する仕掛けは中国の都市部を中心に急速に拡大しつつあり、日本国内においても、既に浅草や秋葉原などの中国人観光客の好むエリアへのインフラの普及が進んできています。
米国では少額決済にもクレジットカードを普通に使いますが、日本ではまだまだ現金払いがメイン。JR東日本のスイカやセブンイレブンホールディングスのナナコなどのプリペイドカードもそれなりに普及してはきたものの、現金決済のボリュームには遠く及ばない状況でしょう。クレジットカードからのオートチャージ機能が装備されていても、結局は現金を渡してチャージして貰うという使い方が未だ主流を占めていますしね。こうした意味からも、日本は紛れもない現金大国であると断言出来ましょう。
元々日本の紙幣が他国通貨に比べて偽造に強いという点も、現金主義を増長させる原因の一つ。しかしそれだけではなく、日本が現金大国である理由の一番は、銀行ATMの普及率の高さにあると思うのです。私も以前は仕事で様々な国に赴きましたけれども、これほど多くのATM(現金自動預払機)を街中で目にする国は、日本を除いて皆無であります。
ATMの設置には多くの費用が掛かるそう。機械に対する初期投資だけで1台当たり2〜300万円。更に設置場所代や通信費、現金の輸送や入れ替えに掛かる警備コストなど、銀行の負担は大きくなるばかりです。政府はこうした現金第一主義を電子決済に振り向けようと躍起になっているようですが、一度根付いた商習慣は、そう簡単に変わるものではないでしょう。
東急電鉄が、駅の券売機にCD(キャッシュディスペンサ)機能を搭載する計画であると発表しました。ATMが現金の預入れと払出しの機能を有するのに対し、CDは払出しに特化した機械を指します。銀行と連携したスマホのアプリで下ろす金額を指定し、画面上に表示されたワンタイムのQRコードを券売機に読ませると、券売機から現金が出てくる仕組み。
よく考えてみれば、駅の券売機に一万円札を入れる事はあっても、最高額紙幣である一万円札をお釣りとして出す事はありませんから、券売機には一万円札が貯まる一方。これを定期的に取り出す為の手間や現金輸送の警備費等を考えると、券売機のCD化は現金回収の頻度を下げる効果がありますから、経費節減に直結するという訳です。更に銀行からの手数料収入が得られる事を考えると、素晴らしいビジネスモデルと云えそうです。銀行が経費の掛かる専用ATMを減らして、コンビニATMに相乗りしようとしている風潮にもバッチリ合う、まさに
Win-Win のやり方でしょう。まったく、世の中には頭の良い人が居るものであります。
侮れない相手である。何か特殊な訓練でも受けているのではないか、と疑いたくなった。
森博嗣著「彼女は一人で歩くのか?」(講談社文庫)からのお言葉です。本当の頭の良さというのは、こうしたアイデアを出せる能力の事ではないでしょうか。東急電鉄の今回の試みは、様々な鉄道会社の券売機で流用可能でしょう。駅の券売機で現金を下ろす、という行為が普通の事になるのも、間もなくのような気が致します。
【つづく】
「今週のお言葉」の目次に戻る
「やすなべの目次に戻る」