のこむぎを連れて、立川の昭和記念公園へ出掛けたときの事であります。こむぎも私も、それぞれ年間パスポートを持っておりますので昭和記念公園には割とよく出掛けるのですが、この日もいつものように自転車でこむカーを牽いてきたのでありました。
元々犬用リアカーのこむカーは、折り畳み小径車のチビ号で牽引していたのですが、最近アタッチメントを移植して、ファットバイクのデブ号に接続するように変更したのであります。フレームの柔いチビ号で重量物を引っ張ると、どうしても車体が振られがちになります。その点デブ号は元々がオフローダでありますから、こむカー程度の牽引抵抗くらいならビクともしませんからな。
この日は、こむぎの大好物のお魚ソーセージとチーズパンを持参しておりました。普段はまず最初にドッグランに行くのですが、ドッグランへのおやつの持ち込みは禁止されておりますので、先に園内を散歩し、どこかベンチに座っておやつを食べようという趣向です。
昭和記念公園には大きな池があります。この池にはたくさんの鯉が生息していて、人間の姿を見つけると一斉に岸に寄って参ります。おそらくは餌を与えられた事を覚えていて、人の姿を見掛けただけで条件反射的に集まってくるのでありましょう。大量の鯉にこむぎは大興奮の様子。私は更に鯉を集めてこむぎを喜ばそうと、おやつのチーズパンをひとかけら千切って池に投げ入れてみたのでした。
わさわさわさ〜っという感じで鯉が集まってきました。物凄い鯉密度！こむぎも思わず後ずさりしています。ちょっと怖いくらい。今度は岸ギリギリの辺りにチーズパンをひとかけら千切って池に投げ入れてみたところ、勢い余って岸に上陸してしまいそうな勢いで、鯉が次から次へと攻め込んできます。こむぎはこの鯉圧力に完全に気圧されて、既に尻尾が股の間に入り込んでいます。その上、鯉の大群から逃げようと焦るあまり、片足を池に突っ込んでしまいました。これはマズい！私は慌ててこむぎのハーネスを掴んで、岸に引き上げようとしました。その時片手に持っていたチーズパンを丸ごと一つ池に落としてしまったのであります！
池はざわめき立ち、鯉が鯉の上に乗り上げ、更にその上に鯉が乗るという、阿鼻叫喚状態に。ちょっとしたホラー映画並の怖さであります。私とこむぎは這々の体で岸から何とか離れました。落としてしまったチーズパンは惜しいですが、今更どうする事も出来ません。
さうして、しまひには、すつかりとろけて、解らなくなつてしまひました。
内田百間著「王様の背中」（旺文社文庫）からのお言葉です。まだドッグランにも行っていないというのに、こむぎも私もすっかり疲れ切ってしまったというお話で御座いました。それにしても、腹をへらした鯉の集団って、ちょっとした恐怖でありますなぁ。
【つづく】
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