20年前、うちの息子たちが幼稚園の頃、タミヤ模型から発売された「ミニ四駆」が大変なブームになりました。タイアップ・アニメーションの視聴率も高く、子供ばかりではなく親子でハマっている場面も見られたものであります。
ミニ四駆とは、FA-130サイズの直流モータを、単3電池2本で駆動するタイプの、1/32スケールの車のプラモデルです。ラジコンではなく、レーンで区切られたコースに沿って走らせて順位を競うのですが、モータをはじめとする改造部品が何種類も市場に出回っていて、より軽量で精度の高い部品に交換したり、駆動部の軸受けをベアリング化して摩擦抵抗を軽減したり、高出力のモーターを使ったり、グリップ力の高いタイヤに交換したりと、タイムを削る為に、当の子供たちは当然として、大人さえも夢中になったものでありますよ。
一次電池を使うと不経済なので、二次電池を使うのが一般的でした。一応解説申し上げますと、一次電池とは使い切りの電池、二次電池は充電して繰り返し使用可能な電池の事を指します。いわゆる充電池の事ですな。当時の充電池はニッケル・カドミウム電池(通称:ニッカド電池)が主流でありました。完全に放電する事無しに継ぎ足し充電をすると、メモリー効果が起こり、充電量自体が少なくなってしまうという性質が有った為、抵抗器で熱に変換するだけの回路を使って、一旦完全に放電してから充電する、というやり方が採られていました。
この頃の記憶が強く残っているのでしょう。特にミニ四駆世代である20代〜30代の男性の中には、あらゆる充電池にはメモリー効果が存在し、故に継ぎ足し充電をするとバッテリーの寿命が短くなってしまうと盲信している方がいらっしゃいます。
スマートフォンやノートパソコンに代表される、現代のモバイル機器のほとんどは、リチウムイオン充電池で動いています。リチウムはイオン化傾向が非常に高く水に触れただけで化学反応が始まってしまう位ですから、起電力も大きく、それもモバイル機器に好んで用いられる理由の一つでありましょう。例えばニッケル水素充電池の定格電圧が1.2Vであるのに対し、リチウムイオン充電池の定格電圧は3.6Vですからね。
採用の理由はそれだけではありません。リチウムイオン充電池は継ぎ足し充電に強く、メモリー効果もほとんど観測されないのです。充電のタイミングなど全く意識せず、いつでも充電可能な性質は、モバイル機器にピッタリという訳であります。
先日、某家電量販店に出掛けて、6ポートのUSBタップを物色しておりました。6口のUSBポートを装備し、AC100Vに繋いで、各ポート毎に最大2.4アンペアまで給電出来る優れモノです。現在Yas家では1口のUSBタップをAC100Vに3つも4つもタコ足で繋いでおり、見た目も良くありませんし、一々抜き差ししなければならず利便性も悪いのであります。
実はUSBタップには、各ポート毎に2.4アンペアの給電を保証しているモノと、各ポートのMAXは2.4アンペアでも6ポート合計で8アンペア程度しか出せないモノが存在します。どうせ購入するなら、各ポート毎に2.4アンペアを保証しているタイプが良いに決まっていて、これらを見極める為に、箱の裏に掛かれているスペックを熟読していたところ、店員さんが話しかけてきたのでありました。
USBタップをお探しですか?
うん、各ポート毎に2.4アンペアを保証している6口のヤツね。
お客様、どのような機器の充電にお使いでしょうか。
え?普通にスマホとかiPadとかiPodとかBluetoothヘッドホンとかだよ。
お客様、iPadとかスマートフォンなどの大容量機器は良いのですが、iPodとかBluetoothヘッドホンなどの充電量の小さい機器に2.4アンペアも流すと壊れてしまいますよ。
おいおい、結局USBポートは5ボルトを給電してるだけで、流れるアンペア数は接続する機器の内部抵抗値によって決まるんだからさ、繋ぐだけで2.4アンペア流れる訳ないじゃん。(こいつ、電器屋の店員の癖にオームの法則も分からないのか?)
いえ、この商品はポート当たり2.4アンペアを保証しておりますので。
(だめだ、こりゃ)それって5ボルト×2.4アンペアで12ワット以下の機器の充電を保証してるって意味で、必ず2.4アンペア流れる訳じゃないんだけど・・・まあ、いいや。(説明するのも面倒くさいし)
ところでお客様。
え、まだ何かあるの?
スマホはあまり頻繁に充電しない方が良いですよ。メモリ効果ですぐにバッテリがバカになってしまいますから。
(出たな〜、間違った知識を振り回してやがる)でもさ、スマホってリチウムイオン電池だぜ。
ええ。高価なリチウムイオンバッテリーの寿命を少しでも延ばす為には、毎回完全放電した方が良いのです。完全放電の為にYouTubeとか電気を大量に消費するアプリを使って、一気にバッテリーを使う方が良いのです。
(だめだ、話にならねぇ)リチウムイオン充電池は60℃以上で急速に劣化が始まるから、CPUパワーを使い過ぎて筐体が熱くなる方が、バッテリーに負担が掛かるんじゃね?ま、発熱に応じてOSが勝手にCPUのクロックを下げるから致命的なダメージを受ける事は無いだろうけど、発熱がバッテリーに悪影響を与えるのは間違いないよね。それにね店員さん、リチウムイオン充電池は、構造上、完全放電すると元に戻らなくなるよ。ま、それも完全放電の前に、スマホのOSが自動でシャットダウンするだろうから大丈夫だけどさ。
お客様、そんな事はありません。リチウムイオンの継ぎ足し充電は、絶対にダメなのです。間違い御座いません。だって私はプロなんですよ。
誰も二の句が継げない。
恩田陸著「蜜蜂と遠雷」(幻冬舎)からのお言葉です。あ〜、もう誰でも良いから助けてくれ〜。都市伝説的な間違った知識をお客に向かって振り回すのだけは、やめて欲しいものであります。と云うより、何でこんな人が、よりによってUSBタップ売場の担当なのさ!しっかり社員教育しないと、今後は家電量販店に行かずに、アマゾンで買っちゃうぞ〜!
まとめ:
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リチウムイオン充電池にメモリ効果はありませんので、継ぎ足し充電しても劣化が早まる事はありません。 |
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リチウムイオン充電池はその構造上、完全放電すると元に戻りません。その為にスマートフォンなどでは電源を入れっぱなしにしたまま放置しても、完全放電に至る前にOSが自らシャットダウンする造りになっています。 |
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リチウムイオン充電池は過充電すると著しく性能が劣化します。これは過充電による発熱が直接の原因です。電解質に可燃性の有機溶媒を使用している為に、加熱によって有機溶媒が揮発しバッテリー本体が膨張します。最悪の場合加熱による火災が発生する可能性もあります。ま、普通は、過充電が発生しないように、スマホのOSが自動制御してくれますので大丈夫です。
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「スマートフォンを充電しながら使用するのはバッテリーを劣化させる」、という説がありますが充電しながらの使用自体は構造上問題ありません。ただし充電しながらスマホを使う場面では、例えば動画を視聴したりといったCPUに負荷が掛かる(電力を多く消費する)作業をしている事が多く、そうした発熱しやすい状態での充電が、リチウムイオン充電池の劣化に繋がるという意味で注意が必要です。要は発熱にさえ気を付ければどんなタイミングで充電しても大丈夫という事であります。 |
【つづく】
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