田峠などの急坂を自転車で登ると、心拍数は限界まで上昇し汗が噴き出します。理想的には低いギアでクルクル回すイメージで走りたいところですが、私の場合インナー・ローを以てしても停止しないように登り続けるのが精一杯で、ほとんど屈伸運動をやっているかのよう。慣性限界一杯の極低速でフラフラしながら、滝のような汗でサングラスは曇り、それでも足を着かないように根性だけで頂上を目指します。
気持ちの良い林の中の道だというのに、景色や雰囲気を楽しむ余裕など皆無。聞こえてくるのはハァハァという自分の呼吸音のみであります。水分補給したくても、ボトルケージからボトルを取り出す余裕すらありません。一般的に、運動は身体に良い、と広く信じられておりますが、それは「適度な運動」の事であって、和田峠への自転車での登坂は、逆に健康に対して悪影響しか無いのではないかなぁ。
こうした、ある意味自虐的な遊びをしている私を見て、一部の友人は、「自転車で坂道登るのって楽しいの?」と聞いてきます。
これが、まあ楽しいっちゃ楽しいんだけども、そうでもないんだ。
長嶋有著「もう生まれたくない」(講談社)からのお言葉です。登っている最中は苦しいだけで、何の喜びもありません。いやそれどころか、この苦痛が少しでも早く終わらないかなぁ、と考えつつ、耐えて耐えて耐えまくるだけなのであります。決して誰かに見せる訳ではありません。それどころか多くの場合、誰も見ていないのであります。自らの、自転車乗りとしての矜持の為だけに頑張るのです。無事、足着き無しで登り切った際の達成感は相当なモノでありますけれども、同時に、こんな苦しいところにもう二度と来るもんかと毎回思います。
それでもまたしばらくすると和田峠に出掛けてしまう私を見て、かみさんは、「Yasちゃんってマゾだよね〜」とシンプルに云い放つ訳ですが、複雑なこの思いを簡単な一言で片づけられてしまうのは、甚だ不本意なのでありました。
【つづく】
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