ードバイクのピンク号で近所にお出掛けした時の事。午後から用事があったので、サイクリングと申しましてもほんの近距離でありますがね。真面目にトレーニングしようなんて意図は全くなく、タラタラと尾根幹線を走っておりました。一応、ご存じのない方の為にご説明申し上げますと、尾根幹線とは稲城から町田を結ぶ尾根道で、適度にアップダウンがありしかも路側帯が広くて走りやすいもんですから、地元のローディの格好の練習場と化している道であります。
東急自動車学校のところで信号待ちをしておりますと、後ろから追いついて来た、歳の頃30台後半位と覚しきローディの方が話し掛けてきました。
「こりゃまた渋いのにお乗りですね。それにしても綺麗なピンク色。これってオーダー自転車ですか?」
「ええ」
「どちらで造られました?」
「立川にあるマングローブ・バイクスってプロショップで拵えて貰いました」
「やっぱクロモリも良いなぁ。ホリゾンタル・フレームもカッコいいですね」
「有り難う御座います」
「でもこれって漕いでて重くないっすか?」
「ま、普通に漕げますよ。私自身が遅いのでタラタラ走ってますけど、速い人ならそれなりにイケると思いますよ」
「カーボンと比べてどうですかね」
「スミマセン。私カーボンのロード持ってないのでちょっと分からないです」
「え?だって時代はカーボンですよ。クロモリを持ってる人だって、普通はカーボンも持ってるんじゃないんですか?」
「いやいやゴメンナサイ。持ってないどころか、ほとんど乗った事すら無いのです」
「うわ〜、それってかなりのレアじゃないかなぁ。よっぽどクロモリがお好きなんですね。それにしてもカーボンに乗った事もないのにクロモリ買うとは」
一律に論じることはできない。だから一律に論じてほしくもない。
村上春樹著「職業としての小説家」(スイッチ・パブリッシング)からのお言葉です。ツールドフランス等の競技の世界では、カーボンフレームをチョイスするのは、もはや当たり前でしょう。確かに軽いですしね。しかしだからと云って、クロームモリブデン鋼製のオーダー・ロードバイクに乗っている私を希少種扱いするのも何だかなぁ。あくまでも素人の趣味な訳ですし。それに件のお兄さんは重量を相当気にしていらっしゃるようでありますけれども、総重量が全ての性能を決める訳ではありません。慣性モーメントに影響を与えるホイールなどの回転部に比べれば、フレームの重さが加速に与える影響など軽微なものでしょう。少なくとも私の場合、フレーム重量よりもお腹の肉の方がよっぽど影響が大きい状態ですからな。
彼のカーボンに心酔する気持ちを否定する気など更々ありませんけれども、カーボンに乗らないと普通じゃないと断定されるのは、ちょっと心外でありました〜。ま、私も50歳。大人らしくニッコリ笑って、軽くやり過ごしましたがね。
【つづく】
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