日、高校時代の同級生との呑み会に出席する為、沼津に向かおうとしていた時の話であります。小田急多摩線で新百合ヶ丘駅に着くと、車両トラブルの為、現在、全てのロマンスカーの運行を取りやめている旨のアナウンスがされているではありませんか。普段は小田原までロマンスカーを使うのですが、この日は仕方無く、小田急の在来急行で小田原に向かう事にしたのでありました。
全席指定で立ち乗り禁止のロマンスカーと異なり、在来急行は混んでおりました。私は町田駅で運良く座れましたけれども、かなりの人数の方が立っている状態。更に、途中の相模大野駅でダダダっと大勢の人が乗り込んで来て、座席はおろか、吊革も一杯になってしまいました。私の左斜め前に、歳の頃50代後半から60代前半と覚しき男性が立っております。すると私の左隣に座っていた大学生らしき女性がその男性に向かって「お座り下さい」と席を譲ろうとしたのでありました。
嗚呼、駄目だ、お嬢さん!あなたの善意に基づく行動は確かに素晴らしい。しかし譲る相手が悪過ぎる!若いあなたから見れば老人っぽく見えるのかも知れないですが、50代後半から60代前半の男性って微妙なお年頃なのでありますよ。う〜む、トラブルにならなければ良いのですが・・・。
「失礼だな。私は席を譲って貰うような歳ではない!!」あちゃ〜。やっぱり!微妙なお年頃でかつ偏屈で空気を読めないなオヤジでありました。あのね、年寄り扱いされてムッとする気持ちは、良〜く分かります。でもね、私も含め40代後半〜60代前半のオサ〜ンなんて、20歳前後のお若い女性から見れば、み〜んな同じ、年齢不詳オヤジに過ぎないのでありますよ。しかもほら、ちょっと考えれば分かると思いますケド、車内の空気は最悪になっちゃったでしょ。件のお嬢さんは泣き出しそうだし、かといって電車は相模大野駅を出たばかりで、次の停車駅まではしばらく停まりそうにない。あ〜あ、もうちょっと大人の対応って出来ないもんですかねぇ。
お嬢さんもお嬢さんです。はっきりと誰から見てもヨボヨボであるとか、荷物が多くてふらついているとか、明らかに座りたがっている人以外に席を譲ろうとする行為自体、トラブルの元となり得る可能性を考えなくては。まだまだ人生経験が足りないと云わざるを得ませんなぁ。
人の善意は必ず他人を幸福にするとは限らない。
さだまさし著「風に立つライオン」(幻冬舎文庫)からのお言葉です。オヤジはプリプリ怒ってるし、お嬢さんはオロオロして泣く寸前だし、こりゃ仕方が無ぇな。オサ〜ンであるところの私が、お節介を焼くしかなさそうであります。
「こちらのお嬢さんは、目上の方が立ってらっしゃるのに若い自分が座っている訳にはいかないと考えて、席を譲ろうとしたのだと思います。あなたの具体的な年齢を想定した訳ではないでしょう。彼女に対しあなたが目上である事は間違いないですし、ここは彼女の気持ちも汲んであげて、お座りになったら如何でしょう。もし僕がこんな綺麗なお嬢さんに席を譲って貰ったら、ルンルンで座っちまいますケドねぇ(笑)」
最後の方は周りの笑いを取りつつ、こう云うと、オヤジはやっと納得して席に座ったのでありました。お嬢さんが私に向かって黙礼しましたので、私もお返しに舌をぺろんと出しましたところ、お嬢さんはやっとホッとしたようで、にっこり笑ったのでありました。それにしても全く世話の焼ける微妙な年頃のオヤジですなぁ。とは云え、もうすぐ私も50歳。微妙なお年頃の仲間入りであります。人の振り見て我が振り直せと申します。少なくとも、周りの空気を険悪にするような反応をしないオヤジになろうと、強く心に誓ったのでありました。
【つづく】
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