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  今週のお言葉  

 はいわゆる着道楽(きどうらく)の方の気持ちを、どうしても理解する事が出来ません。服やファッションやコーディネートの知識は皆無。そもそもどの服を着ていくべきかを考えたりする事自体が、とても億劫に感じるのです。そういう意味では、中学や高校の頃は楽でした。何も考えずに制服着てりゃ良かったんだもの。今はこうした面倒な事をどう解決しているかというと、全てかみさん任せにして凌いでおります。

 朝、起きると枕元に服が畳んで並べられていますから、それをそのまま着るだけ。秋になれば秋っぽい服が、冬になれば暖かい服が自動的にチョイスされています。かみさんは私の体の寸法も熟知していて、私が何もしなくても時々ズボンとかシャツとか下着とかジャンパーとか買ってきてくれます。私はその服がいつどこで買われたモノかも把握していませんし、普段その服がどこにしまわれているかも知りません。まさに出されたモノをそのまま着るだけ。私の目から見れば、完全なるクラウド型全自動システムであります。

 先日、かみさんと電車で橋本にお出掛けしました。特に用事があった訳ではありません。テレビでやってる「ぶらり途中下車の旅」よろしく、今まで降り立った事のない、橋本の街を二人で探検に行ったのであります。橋本駅の周辺をぐるぐる散歩した後、駅の北口のファッションビルでかみさんが買い物したいというので、中に入ってみる事に致しました。中々大きくて立派なビルで、中には様々なテナントが入っています。かみさんが洋服やバッグなどを見ている間、そういったモノに興味のない私は、同じビルに入っている書店をブラブラして時間をつぶす事にしたのでありました。

 ところがこの書店、郊外の中規模店にありがちな、マンガと雑誌とファンシー文具を中心とした品揃えの店で、たった5分居ただけで飽きてしまったのであります。かみさんは、まだ色々と見て回りたいでしょうし、しかし私はやる事がなくなってしまいました。よ〜し、ここは後学の為にも洋服屋さんを見て回ろうじゃありませんか!一大決心をして服飾品のフロアに移動したのであります。

 それにしてもなぜアパレル系のお店の販売スタッフの方は、私がちらっと服を見ただけなのに、さっと寄ってきて話し掛けようとするのでしょうか。しかもイントネーションがちょっと変な、歌うような鼻に掛かった声で早口で何かを質問してくるのです。高音な上に早口で、しかも私には分からないおそらくファッション用語と思われるカタカナ言葉を多用して話をされても、困ってしまいます。そもそも私は時間をつぶしているだけで、店員さんに対して、何ら尋ねるべき事もお願いすべき事も相談すべき事も無いのです。その店員さんはしきりと冬物のジャケットを私に勧めてきます。「これだけのクオリティのアイテムが20%OFFなんてチャンスは、そうそうありませんよ」と押してきます。だからさ、俺、見てるだけなんだってば。

 そのうち別の店員さんがいきなりハンドベルをカラ〜ンカラ〜ンと鳴らして、拡声器で「は〜い、只今よりタイムセール開始!全商品値札価格を更にレジにて半額で〜す!」と叫び始めました。するとどうでしょう。フロア中のお客さんがその店にワサワサワサと集まって来たではありませんか!皆本気で目が血走っています。その価格が適正なモノなのか一切の知識を持たぬ私は、そのセールの凄さが全く分かりません。それにしても、このいきなりの値下げ販売は、ちょっと商業モラルに欠けるのではないかしらん。セールが始まる前に高い価格で購入してしまったお客さんの立場はどうなるのでしょう。私にしても、買わなかったから良かったものの、最初の店員さんに勧められるままにジャケットを買っていたら、思いっきり損しているところでした。タイムセールの実施は全スタッフが把握していた事だろうし、だとしたら、セール直前に高い価格で売りつけようとした行為に対して、不信感を抱かざるを得ません。

 そんな私の疑問や困惑や不信感に関係なく、タイムセールに集まってきたお客さんたちで、店はもの凄い活気であります。さっきまではこの店に誰も寄りつきもしなかった癖に。正規価格で購入してくれるお客さんを目の前で裏切って半額で叩き売ったり、全く相手にしていなかった店に我がちに客が集まってきたり、傍観者である私からみれば、こりゃもう魑魅魍魎(ちみもうりょう)の世界でっせ。

 人間に化けて渋谷の街に闖入していく子だぬきみたいな気持ちになった。

 小嶋陽太郎著「気障(きざ)でけっこうです」(角川書店)からのお言葉です。このお客さんたちは、自分の意志でこうした行動を取っている訳で、そうした心理の理解出来ない私から見ると、早いとこ自分の住む長閑(のどか)で平和なお山に帰りたいよ〜という、子だぬきちゃん的な気持ちで一杯になったのでありました。やっぱ服については全面的にかみさんに任せているのが、私にとってはベストのようでありますなぁ。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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