の仕事は午後始まりの為、平日の午前中はこむぎと散歩に出たり、または家で本を読んだり、DVDを観たり、ローラーゴンゴロしたりして過ごします。このスローな生活、中々楽しいのでありますよ。
ところがこうした平日の午前中って、意外にも結構電話が掛かってくるのですな。ほとんどがセールスの電話です。今や一人一台が当たり前となりつつある携帯電話の普及を受けて、固定電話、通称家電の利用機会は急速に減りつつあり、特にうちの場合、ほとんどセールス専用電話になりつつあります。
この日も約2時間程のロング散歩を終え、シャワーを浴びた後、読書を楽しんでいたのでありました。出勤まではまだ2時間くらいあります。そこへ電話が掛かって参りました。この時間の家電への電話は、経験上ほぼ100％の確率でセールスの電話でありますよ。
「はい、もしもし」
「私○○株式会社海外投資事業部の△△と申します。ご主人様でいらっしゃいますか」
さて、既にこの時点で相手はかなり程度の低いブラックな企業である事が分かります。私は敢えて「もしもし」と答えただけで、一言も名乗っておりません。普通は「□□様のお宅でいらっしゃいますでしょうか」と、まず名前を確認するでしょう。これをしないという事は、相手は名簿業者から名簿を買う事すらせずに、市外局番以下の番号をシーケンシャルに回しているだけの、下手な鉄砲も数打ちゃ当たる戦法の業者である事は間違いありますまい。
私自身名簿業者から名簿を購入した事はありませんけれども、仕事の性質上、様々な名簿業者からのセールスを受けます。最近の名簿は地区や年齢は勿論、購買動向などの様々なフィルタリングがなされている代わりに、1件あたりの単価は高めとなっています。とすると、一定以上の確率で購入に至るようなカタい商品を扱っていないと、下手に名簿を使うと赤字になってしまうのであります。つまりはこの電話、ほとんど売れないモノをセールスしようとしている事が推察される訳です。
「どういったご用件でしょうか」
そう返答しつつも、ナンバーディスプレーに表示されている電話番号をiPadで検索してみます。やっぱね〜。エビの養殖ファンドの勧誘みたい。クチコミ欄には要注意アイコンが、ずら〜っと並んでいます。
「私どもは東南アジアでエビの養殖を主に行なっている会社で、今回は業務拡大に伴って非常に利回りの良いファンドをご提供しようと云う事で、まずは当社と関わりのある大切なお客様優先で電話をさせて頂いた次第です」
「おかしいなぁ。○○株式会社さんなんて名前も知らないし、そもそも投資なんてした事もないよ。そっちのデータにはちゃんと鈴木一郎って載ってるの？」
「はい、確かにそのように掲載されておりますが」
この時点で嘘が確定的となりました。私は鈴木一郎ではありません。わざと嘘の名前を名乗ったのに、この反応。やっぱりシーケンシャルにダイヤルしているだけのようであります。
「あそう。おかしいねぇ」
「やはり鈴木様とは直接ではないにしろ、過去に何らかの形でのお付き合いがあったのだと思いますよ。ところで今回、ベトナムに大規模なエビの養殖場を建築する事になりまして、一口500万円で年利60％の利回りでのご案内となるのですが」
あのですね、何らかの形でのお付き合いって・・・。最初、「大切なお客様優先」って云ったくせに。こりゃかなりのブラック案件間違い無しですな。そもそも年利60％ってちょっと常軌を逸した数字でっせ〜。
「ひゃあ、年利60％だって？ちょっと待ってよ、複利だと3年で409.6％だよ、2000万円超えちゃうジャン。でも超ハイリスクなんでしょ、このファンド」
「いえ、実はここだけの話、元本保証で御座います。ですから大切なお客様限定でお電話させて頂いているという訳です」
まさに夢のようですね。僕が思うに、それはきっと夢ですよ。
森見登美彦著「恋文の技術」（ポプラ社）からのお言葉です。結局、すぐに手付金を30万円入れて頂ければファンド購入権を確保出来ますなんて話になって、しかもその口座が何故か会社名義ではなく個人名だったりして、ま、元々怪しさ満載だった訳ですが、ここまで典型的だとちょっと笑ってしまいます。
急な来客があったフリをして、「すぐに出掛けなくてはならない。後で携帯から折り返すので、御社の代表番号を教えて貰えますか」って聞いたところ、答えたのはナンバーディスプレイに表示されてるのと同じ番号。結局、回線一本しか無いって事ネ。相手は折り返して貰えるのなら私の携帯番号まで押さえられるってんで、ホイホイと電話を切ってくれましたよ。あとは当該番号を着信拒否設定して、はいオシマイ。
みなさま、美味しい話を鵜呑みにしてはいけませんぞ〜。警察の注意喚起ビデオそのものの様な、午前中のセールス電話でありましたとさ。いやセールスというより、きっとありゃ詐欺だろね。
【つづく】
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