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  今週のお言葉  

 先日、こむ散歩に出掛けた時のお話です。普段、多摩動物公園の裏山に行く事が多い朝の散歩。ところがこの日に限って、こむぎは、日野わかば幼稚園横の林に行きたがります。珍しい事もあるもんだと思いつつ、京王動物公園駅の裏手に回り、幼稚園の横の遊歩道を登っていったのであります。

 この道も中々気持ちの良い林の中の道です。しかし如何せん距離が短い。300m程で程久保3丁目の住宅地に出てしまいます。当然の如く、こむぎは欲求不満気味。仕方ねぇなぁ。日野第三中学の裏山まで行くかぁ。かくして私とこむぎは、住宅地の中を、日野三中目指して歩いていったのでありました。

 この付近の住宅地は坂がちで、こうした立地からでしょう、道路から2m程高い位置に家を建てているケースが多く、こうしたお宅では、道路から階段を登って玄関アプローチに至る形式がほとんどであります。

 ワンちゃんを外飼いしているお宅があって、犬小屋が道路を見下ろす形で置かれています。道路からの高さは2m50cmといったところでしょうか。擁壁(ようへき)の角度は80度位。体感的には、ほぼ垂直の壁です。道路からは犬小屋の屋根部分しか見えません。

 一緒に歩いていたこむぎが、グウゥゥムンと妙な声でなきました。ふとこむぎの視線を追うように斜め前方を見ると、中型犬が擁壁から鎖でぶら下がっているではありませんか!!手足をバタバタさせていますが、一言も声を発しません!!完全に首吊り状態であります!!私とこむぎは、全速力で駆け寄っていきました。

 いかな私にも全くの意外に相違なかった。

 夏目漱石著「こころ」の中のお言葉です。真下に駆けつけた時には、すでに手足の動きが止まり掛けていました。中吊りのワンちゃんはハーネスをつけておらず、鎖は首輪に連結されていましたから、まさに首吊り。息が出来ないのは当然として、頸動脈も締まっている可能性があります。南無三。急いで首輪から鎖を外し、抱き留めました。ワンちゃんはブルブルと胴震いをして、こちらを見、やっと我に返ったのでしょう、私の右手にガブリと噛みつきました。力強い感触。良かった。助かった。これだけ噛めればもう大丈夫。

 ワンちゃんは動転のあまり噛みついてしまっただけで、すぐに、私に助けられたのだと認識した様子。以降は噛んだり吠えたりする事無く、お行儀良く私に抱っこされておりました。

 ワンちゃんを抱っこしたまま門のところのインターフォンを鳴らしましたが、お留守なのでしょう、何度ボタンを押しても全く反応がありません。そうこうしておりましたところ、ご近所の方と思われる二人連れの女性の方が歩いて参りましたので、事情を説明し、こむぎを見ていて貰う間に、そのお宅の門を開けて、ワンちゃんを元の場所に繋ぎに行きました。

 ところが、ワンちゃんは殊の外興奮している様子で、しきりに柵を乗り越えようとしてしまいます。これでは再度首吊りになってしまう危険が高い。お家の方がお留守の状態の今、このままワンちゃんを置いてくる訳にもいきません。女性の方たちとも相談しましたけれども、やはり元の場所に繋ぐのは危ないと判断。安全な、玄関の柱に繋ぎ直す事に致しました。

 偶然にもワンちゃんの命を救う事が出来ました。いやぁ、びっくりしたなぁ。それにしても絶妙なタイミングでした。そもそもここは、普段あまり通らないルートですからね。今朝に限って、こむぎが幼稚園横の林に行きたがったのも、今考えれば不思議な話であります。

 ワンちゃんが助かったのは良かったとして、このままでは、飼い主の方が不審に思われるのは確実です。お留守の間にワンちゃんが首吊り状態になったなんて(うかが)い知る事も出来ないのですから、誰かが門の中に侵入して犬を繋ぎ直したという事実しか認識出来ない筈。泥棒の仕業(しわざ)の可能性をも考えるでしょう。そこで、事の顛末(てんまつ)を手紙に書き、ポストに入れておく事にしました。ちょっと迷いましたが、私の名前と連絡先も書いておきましたよ。如何な緊急事態とは云え、無断で他人様の敷地に入ったのは事実であります。やはり匿名ではなく、連絡を取れるようにしておいた方が良かろうと考えたのでありました。

 夕方にワンちゃんの飼い主の方から、「手紙を読みました。本当に有り難う御座いました」との電話を頂きました。飼い主の方から見れば家族の一員であります。大事に至らずホッとしている旨、偶然通りかかって本当に良かった旨をお伝えしておきました。あのワンちゃんはまだ死ぬ運命ではなかったという事でありましょう。きっと神様が「こちらに来るのはまだ早い」と思って、こむぎにサインを送ったのかも知れませんね。不思議な体験でありました。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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