が程久保基地は、多摩動物公園のすぐ近所に位置しています。周りには雑木林が多く残り、ここが都内であるとは信じ難い位の里山の風情。のんびりとした雰囲気で、平日の住環境としては最高ですが、休日の渋滞だけはイタダケないのであります。
多摩動物公園は、多大な来訪者に対して、ほんの小さな専用駐車場しか持っておりません。故に休日の朝ともなれば、慢性的に渋滞が発生致します。こうした車での来訪者を当て込んで、動物公園周辺には広範囲に渡って民間駐車場が乱立しています。中には未舗装の、単に自宅の庭の空きスペースを貸しているだけのモノや、草地に無理矢理停めさせる、休日限定の俄駐車場すら存在する始末であります。
休日の朝、各駐車場の入り口にはそれぞれ人が立ち、旗を振りつつ自らの駐車場に車を誘導しようと躍起になっています。これらの行動原理は、資本主義そのものと呼んで差し支えないでしょう。当然の事ながら、来訪者はなるべく動物園に近い駐車場に車を停めたいと考えるもの。そこで、確実に需要が見込める動物園に近い駐車場は、1200円/日の強気な値段設定で臨みます。対して動物園から離れた場所にある駐車場は、600円/日程度の廉価な価格設定で利用者を呼び込もうとしています。
来訪者は、渋滞する動物園前の道路をトロトロと進みながら、高価いけど近くて便利か、廉価いけど遠くて不便かの選択をしなければならず、こうした逡巡を受けて、渋滞は更に重篤な状態になっていくのでありました。
需要の高い近くの駐車場は比較的ノンビリ商売していて、離れた駐車場のように躍起になって車を誘導する事はしません。それどころか、まだスペースに余裕があるというのに、ロープを張って入口を閉鎖し、早々に「満車」の看板を出してしまいます。近いところに停めたいのは山々としても、満車と表示されたのでは仕方がありませんから、来訪者は近い場所への駐車を諦め、徐々に遠い駐車場に流れていくという訳です。
午前10時半を過ぎると、比較的動物園に近い駐車場はほぼ満車状態となり、かなり遠くの駐車場にしか停められなくなります。言い換えれば、遠い駐車場の市場価値が上がってくる訳です。すると、今まで600円/日の表示だった駐車場が突然看板を掛け替え、800円/日に値上げするではありませんか。平日と休日とで値段設定を変えるだけでなく、一日のうちでも状況を見つつ駐車価格は変動するのでありました。
こうした、離れた場所にある一部の駐車場の値上げを機に、まるで買い気配の強い銘柄の如く、一斉に値上げ合戦が始まります。まさに変動相場制。その為に、駐車場入り口にある料金を示す看板は、どこも掛け替え式が採用されているのです。
まだ空きがあるのにロープを張って「満車」の看板を掲げていた動物園に近い駐車場が、いきなりロープを外し呼び込みを再会し始めました。よく見ますと先ほどまで1200円/日となっていた料金プレートが、1400円/日のモノに掛け変えられています。聡明な皆様なら、もうこのカラクリにお気づきになった事でしょう。そうです。近い駐車場は需要が高く、黙っていても早々に埋まってしまいます。しかしそれでは1200円しか取れないではありませんか。一部の車から1400円という高い単価で料金を徴収する為に、スペースには空きがあるのに敢えて満車の掲示を出して、値上げの機が熟すのを待っていたのです。いわば売り渋り作戦であります。
需要と供給によって市場価格が変動するのに飽きたらず、実際には余裕があるのに在庫調整の如く「満車」の看板を意図的に掲示する事で、更なる値上げを試みる駐車場経営者たち。こうした駆け引きの中、隣の安い駐車場にお客を取られまいと、大きなジェスチャーで無理矢理自分の駐車場に誘導する行為も、そこら中で横行しています。
せちがらいぜ。
磯光雄監督アニメーション作品「電脳コイル」(NHKエンタープライズ)からのお言葉です。ちなみにこれらの駐車場、平日は300円/日〜500円/日の設定であります。このように多摩動物公園の周辺では、なりふり構わぬセチガラ〜イ駐車場戦争が、毎週末、繰り広げられているのでありました。
カルテルを組んで不当に値上げしている訳ではないので独禁法などに抵触している訳ではないでしょうが、それにしても、これだけあからさまに価格を操作するのって、商売の倫理から見てどうなのかしらん。人間の欲望ってヤツが垣間見えた気がしたのでありました。
【つづく】
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