日、ロードバイクのピンクちゃんでR20甲州街道を西進していた時の事であります。圏央道高尾山ICを過ぎ、大垂水峠の手前、東寒葉橋付近で、蛇行する自転車5台の集団に追いつきました。5台ともママチャリであります。
確かに東寒葉橋・西寒葉橋付近は、この峠で一番斜度がきつい区間でありますが、決して蛇行する程ではありません。おそらく、普段あまり自転車に乗り慣れていない人たちなのでしょう。ヨワヨワの私ではありますけれども、流石に蛇行するママチャリに負ける訳には参りません。スルスルっと近づき、彼らを抜かしに掛かりました。するとそのうちの一人が声を掛けてくるではありませんか。見たところ5人とも高校生のようであります。
「ふひ〜、あの〜、スミマセン」
「ほい、どうしました?」
「え〜と、立川から来たんですけど、富士急ハイランドへ行くのはこっちでいいんですか」
「うん。このまま国道20号を進むと大月に出るので、そこで国道139号に左折して、ず〜っと道なりに進めば富士急ハイランドだよ」
「あざ〜っす」
「まさか、そのママチャリで行くの?」
「はい。ジェットコースターに乗りに行くんです」
「まじ?ここからまだ60Kmあるぜ」
「じゃ、時速30Kmで走れば2時間っすね」
「おいおい、ま、計算ではそうだけどさ。お前さんたち、今、時速ヒト桁で蛇行してたじゃん」
「ともかく頑張りま〜す!」
「いやはや・・・。無理するなよ。途中で引き返すのも勇気だぜ」
「は〜い」
「ところでお前さんたち、携帯持ってるよな」
「持ってますケド」
「もう無理とかヤバいとかちょっとでも思ったら、家の人に連絡するんだぞ」
「わかりやした〜」
富士急ハイランドがある富士吉田まではここから60Km、彼らの出発地である立川からは片道80Kmになります。往復では実に160Km、センチュリーランであります。しかも目的地の標高は約850mなのです。大垂水峠で蛇行しているようでは、先が思いやられます。更に、既に午前11時過ぎ。これから河口湖を目指すにしては、出発が遅過ぎたのは明白でありましょう。
でも、ま、街道沿いにはコンビニもたくさんありますし、JR中央本線も通っています。決して命の危険があるような山間部を目指している訳ではありません。いざとなったらどこかに自転車を預けて、電車で帰宅する事だって出来るのです。彼らの無謀なる計画は確かに突っ込みどころ満載ではありますが、ここは若者たちの冒険心を尊重しようではありませんか。彼らにしたって、事を為す前に他人に否定されても、納得には至らないでしょうしね。サイクリングにおける往復160Kmという距離がどれ程のものであるかは、自分の足で経験すれば良いのです。それにしても、何て楽天的な奴ら。良いなあ、若いって事は!
君たちそれでいいのかと説教垂れたくなるくらい、眩しいよ。
菜摘ひかる著「恋は肉色」(光文社)からのお言葉です。彼らの登坂能力、装備、残りの距離から客観的に考えて、富士急ハイランドに行く事は叶わなかったでしょう。いやそれどころか、大月の手前で諦めてしまったかも知れません。
しかしそれでも良いのです。この日の冒険の事は、いつまでも彼らの記憶に残るに違いありません。それにしても、若いという事はそれだけで財産なのですねぇ。全くもって羨ましい限りなのでありました〜。
【つづく】
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