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  今週のお言葉  

 自転車仲間の ともちん氏は、「自分は旅情派である」などと(うそぶ)いていらっしゃいますが、実は彼が相当な健脚である事は、氏を知る人々の間では周知。しかし氏はその健脚をひけらかす事など一切無く、集団のペースに合わせて走って下さいます。どこへ出掛けても誰と出掛けても必ず周りへの気遣いを忘れない男。まさにジェントルマンと申せましょう。

 複数人でサイクリングに出掛ける際、先頭は最も体力を消耗致します。一定以上の速度を維持した自転車走行における空気の抵抗は思う以上に大きく、先頭はあたかも機関車が貨車を牽引するが如く、風除けとして頑張らねばなりません。こうした風除けを利用しての走行の事をドラフティングと申します。自転車の世界において「()く」という表現は、割と一般的であったりするのです。

 ドラフティング走行を維持する為に、概ね数分間毎に先頭を交代しながら走るのが集団走行の流儀でありまして、先頭で数分間頑張った後は、ズルズルと下がって集団の最後尾に回ります。2位が先頭に、3位が2位に、4位が3位に、という具合にせり上がるのです。ツラい機関車役を交代でこなす事で、集団のスピードを高い状態に維持します。全体を眺めればあたかも巨大なキャタピラが回転しているかのような動きで交代を繰り返すのが、こうした自転車の集団走行の特徴であります。

 全員で先頭交代を繰り返す我々素人の集団走行とは異なり、ツールドフランス等に代表されるロード競技では、エースの体力を温存しラストスパートに備えさせる為に、エースを集団の最後尾に居続けさせる作戦を採る事が一般的。ロード競技はチーム戦ですので、チーム全員でエースのアシストをするという訳です。

 ともちん氏は先頭交代のタイミングで、より長い時間先頭を()く事が常で、こうした周りに対する気遣いこそ、彼が紳士のローディーと呼ばれる所以(ゆえん)でありましょう。逆に意図的に最後尾に居座り、他人に牽いて貰うばかりの人の事を「車掌さん」と称して(さげす)みの対象とするのは、ロードバイクの世界でのコモンセンスであります。

 実はこうした集団への気遣いに基づく先頭交代は、アタックの好機でもあります。実際、ともちん氏とお出掛けする際、私は虎視眈々(こしたんたん)とアタックのチャンスを窺うのが常だったり致します。ともちん氏は健脚で、マトモな真っ向勝負では私の勝ち目は全く無し。私がともちん氏に勝つ為には、奇襲作戦しか残されていないのであります。

 やり方が汚ねぇとか、大人げねぇとか、いい歳こいて何やってんのとか、そもそもレースでもないサイクリングなのにアタック掛けるなよとか、様々なご意見がある事は承知しております。それでもともちん氏の一瞬の隙をついて、アタックを敢行してしまう私なのでありました。

 先頭を牽くともちん氏の後ろにピタリとつけ、氏を風除けにして体力を温存します。数分経って、ソロソロと前に出る素振りを見せると、それに合わせてともちん氏が下がり始めます。単なる先頭交代と思わせる為に、敢えて、にこやかな表情を作ったりも致します。ともちん氏が完全に油断している事を確認し、ここで一気に立ち漕ぎで自転車に速力を与えます。既に交代する気になっていたともちん氏は、すぐには反応出来ません。私は立ち漕ぎのまま、うおおおぅ〜などと叫びながら氏を引き離し、仮想ゴールに向けてガッツポーズで飛び込むという寸法であります。

 トムとジェリー、仲良くケンカしな。

 アニメーション作品「トムとジェリー」の日本語版主題歌(三木鶏郎作詞作曲)からのお言葉です。こうしたアタックは、我々の間では既に風物詩になりつつある位、日常的なモノ。あ〜あ、いい大人が、何やってんだか・・・。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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