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  今週のお言葉  

 我が程久保基地は、多摩都市モノレール沿線に位置しています。程久保駅と多摩動物公園駅のちょうど中間くらい。京王線や京王相模原線、JR中央線、小田急線など東西方向の路線がほとんどの多摩地区において、上北台から多摩センターを南北に貫く多摩都市モノレールは、絶妙に便利な路線であります。しかし料金が比較的割高な事などから乗車率はさほど高くなく、便利な割に空いているという変わった路線です。沿線に中央大学、明星大学、帝京大学、大妻女子大学などがあるせいで、4月の半ば頃までは結構混み合いますが、新入生たちも5月が近づくにつれ楽単(らくたん)の存在に気付くのでありましょう。ゴールデンウィークを過ぎると、元の空き具合に戻ります。ま、大学生なんて赤ん坊に次いでよく眠る人種でありますからなぁ。まじめに学校に行くのも4月一杯という訳であります。

 先日、この多摩都市モノレールに乗る機会がありまして、程久保駅から上北台行きに乗り込みましたところ、座席はほぼ一杯でちらほらと立ち乗り客がいる程度の状況。私はドアから車両中央に進み、吊革につかまって文庫本を広げました。すると「て訳で鈴木さんがジュースをこぼした訳よ」と大きな声が致します。「ジュースってドリンクバーのでしょ?」え?何?と思うくらいの音量。7人掛けの横向きの席にお座りの2人のおばさまが通路を隔てて大音量で会話しているのでありました。相当目立つ行為にも関わらず、他のお客さんは全く動じる気配がありません。程久保駅は典型的な住宅地の駅で、時間帯によっては乗降客がほとんど無く、この日も程久保から乗った客は、この車両では私一人だけであります。他の乗客のみなさんが全く動じないところをみますと、このおばさまたちの会話は私が乗る前から続いていたのでしょう。

 「ドリンクバーのジュースって訳。そういう訳で幾ら飲んでも無料って訳。だからそれを水筒に入れようとしたって事な訳。そしたらそれがこぼれちゃったって訳よ」やけに「(わけ)」を多用するおばさまですが、それはこの際おいとくとして、こうしたどうでも良い会話を車両中に響き渡るような大音量で繰り広げるって、ちょっとは恥じらいとか公共意識とか無いものなのでしょうか。歳の頃はそうですねぇ、女性の年齢について言及するのは失礼であるとは知りつつも、お二人合わせて130歳位。本来であれば後進の規範となるべき世代ではありませんか。よりによってそういう方々が、公共の電車の中で狼藉(ろうぜき)とも呼べる振る舞いを演じているのは、ちょっとイタダケないのであります。

 本当に大事なことは、小声でも届くものだ。

 伊坂幸太郎著「グラスホッパー」(角川文庫)からのお言葉です。これが大学生らによる狼藉であれば「おい、うるせぇぞ、静かにしろ」と一喝するところなのでありますが、私、上下関係の大層厳しい柔道部出身であります故、目上の方に注意するのは、大いに抵抗があるので御座います。ところで、最初はウルサく感じていたおばさまたちの会話でありますが、よくよく聞いてみるとこれはこれで結構面白い。そうか、他の乗客の方々は、知らんぷりしてこの会話を聞いていたのですね。

 「ジュースの機械から直接水筒に入れようとした訳。そしたら案の定、店員さんに注意されちゃった訳。それで仕方がないのでグラス5つにジュースをついでテーブルまで運んできた訳よ。ところがグラスから水筒にジュースを移そうとしたら尻漏れしちゃってテーブルがベチャベチャになっちゃった訳」 「あらまあ大変。それで?」 「ゆっくり入れようとするから尻漏れしちゃう訳よって云ってやった訳。そしたら鈴木さんたら思い切り勢いよくジュースを入れようとした訳。そしたらその勢いで水筒が倒れちゃって、今度は床までベシャベシャになっちゃった訳」

 う〜む。実際にファミレスでこの場面に遭遇したら眉をひそめてしまうでしょうが、話として聞く分には大層面白う御座います。それにしてもここまでヒドイと逆に面白くて許せてしまいますなぁ。大音量で会話するお二人もそうですが、ここにはいらっしゃらないジュース持ち帰りの鈴木さんを含め、スゴいおばさまたちなのでありました〜。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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