様、街行く自転車のチェーンに着目した事が御座いますでしょうか。実は私、金属フェチ野郎でありまして、金属部品、特に歯車やネジやチェーンが大好き。故に、巷に溢れる自転車のチェーンに一々目がいってしまいます。

　それにしても綺麗と呼べる状態のチェーンの少ない事！完全にオイル切れで真っ赤っかに錆び、キュラキュラ音を立てているものさえ、ざらであります。ママチャリの多くはチェーンカバーに隠れてその状態を直接窺う事は敵いませんが、オイル切れでキュラキュラか、汚れがこびりついてドロドロかのどちらかである事は、想像に難くありません。

　私、きちんとオイルの回っていない駆動系金属部品って、生理的に受け付けないのでありますよ。逆にこういう部品が綺麗だと、心までスッキリ致します。ま、こう云うところがフェチのフェチたる所以なのでしょうがね。

　愛車ピンクちゃんのチェーンは、KMC製のゴールドに輝く窒化チタンコーティングチェーン。ミッシングリンクがついていますから、チェーンを切らなくても簡単に外して洗う事が出来ます。外したチェーンは灯油にしばらく浸けて汚れを浮かせた後、ブラウンの電動歯ブラシで一コマ一コマ洗っていくのです。私はブラウンの電動歯ブラシ（オーラルＢタイプ）を、歯磨き用とチェーン洗い用の2本所有しております。流石にブラシは高価で勿体ないですから、歯磨きに使って毛先の開きかけたものをチェーン洗い用として再利用しておりますが。

　ヴィイィイィンという小気味よい音とともに、細かい振動によって発生したマイクロバブルが、コマとコマの隙間の汚れも落としていきます。灯油で手が荒れないようにニトリルゴム製のピチピチの青い手袋を装着して作業する姿は、あたかも歯医者さんのよう。いやぁ楽しいなぁ。フェチと呼ばれようが変人扱いされようが、チェーンを綺麗にする作業は、何かこう写経にも通ずる様な心地よい集中感があって、私は大好きなのであります。

　電動歯ブラシで洗った後はキッチンペーパーでよく油を切って、パーツクリーナで更に洗浄します。チェーンはピカピカ。これに絵筆を使ってチェーンオイルを塗布していくのです。ねねね、見てよ見て見て、この綺麗なチェーンを。汚れ一つ無く薄くオイルを塗布された金色に輝く窒化チタンコートチェーンは、金属フェチのプライドそのものなのでありました。

　どんなことを為すにしても、誇りを持たずに行われる行為ほど愚劣なものはない。ひるがえって言えば、誇りさえ確保することができれば、どんな無意味な行為も崇高なものとなり得る。

　森見登美彦著「太陽の塔」（新潮社）からのお言葉です。言い訳など致しません。馬鹿とでも何とでも呼んで下さい。何と云われても良いんだもん。チェーンが大好きなんだから。

---

　ところでちょっと話はズレますけれども、私、一旦気に入るとその作家の著作をはじから読み漁る性癖がありまして、今は森見登美彦氏がマイブーム。故にこの「今週のお言葉」のネタも自然とそこから拾ってくる確率が高くなるという訳です。今回で実に3回連続で森見登美彦氏の作品からのピックアップ。それにしても氏はお若いのに語彙も多いし、表現も豊か。ちょっぴり堅めの言い回しが、モロ私の好みです。今後が楽しみな作家であります。

【つづく】

「今週のお言葉」の目次に戻る

「やすなべの目次に戻る」