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  今週のお言葉  

 ロードバイクでのお出掛けにおいて、携帯する荷物を最小限にとどめるのはセオリーでありましょう。そりゃそうですよね。いかに軽くいかに速く走るかを追求する為に生まれた自転車、それがロードバイクなのですから。

 しかし万全のサポート体制が取られているレースの世界とは異なり、我々アマチュアサイクリストにとって、最低限のトラブルに対応し得る機材の携帯は必須です。家から遠く離れた出先での立ち往生は洒落になりませんからね。23mm幅の細いタイヤを装着している以上、パンクの可能性は常に付き(まと)います。インフレータ(空気入れ)や予備チューブを持つ事は、常識と云っても過言ではないのであります。

 一般的なサイクリストは、こうした対パンク用の機材と共に、簡単な工具程度は携帯してるのが普通です。ところが私の場合、生来の心配性のせいでしょうか、更に高度なトラブルにも対応可能な装備を持ち歩かないと、不安で仕方がありません。とは云え本格的な工具箱を持ち歩く訳にもいきませんから、ギリギリの折衷(せっちゅう)案として、大振りのサドルバッグに入る限界の装備で、何とか我慢している次第です。

 昨年の晩秋に、高尾方面にお出掛けした帰り道の事。高尾山口駅と高尾駅のちょうど中間点付近の甲州街道を、とぼとぼとロードバイクを押している方がいらっしゃるではありませんか。SPD-SLのシューズでカコンカコンと歩きにくそうにしているその姿は、疲弊(ひへい)の色さえ感じます。一瞬パンクかなとも考えましたが、割ときちんとした格好のサイクリストですし、だとするとパンク修理が出来ないとも考えにくい。一旦抜かしてみたものの、思い切って停まってみる事に致しました。

 「お手伝いする事はありますか」とお尋ねしますと、プーリーの不良で走行不能との事。どういう原因かは分かりかねますが、プーリーからチェーンがずれた状態で噛み込んでしまったようなのであります。きっと無理にクランクを踏み込んで外そうとしたのでしょう、プーリーの心棒が曲がってしまっているのでありました。これではチェーンは流れず、故に全く走れません。

 こんな装備は不要だよと長年云われ続けてきたその労苦が報われる時がとうとうやって参りました。私のサドルバッグには、チェーンカッターとシマノ10速チェーン用のコネクトピンが入っていたのであります。チェーンを一度切り離し、プーリーを介さずチェーンリングとスプロケットをダイレクトにチェーンで接続すれば、とりあえずは走行出来るであろう旨をお伝えしましたところ、是非やってくれとの事。いわゆるシングルスピード風にチェーンの取り回しを変える方法であります。勿論、変速は出来ませんが、普通に漕ぐ事が出来ます。

 パンク以上のトラブルの際は諦めてしかるべきである、過剰な工具の搭載は折角のロードバイクを重くするだけだ、そもそもサドルバッグがデカ過ぎて格好悪い、と多くの方に悪口を云われ続けて参りました。それでも(がん)として軽装備に変えなかったのは、心配性だからなどという理由を越え、既に意地の領域に入っていたからであります。でもやっと、それも日の目を見る時がやってきました。現にこうして、人様のお役に立てたではありませんか!

 お手柄と云って欲しいな。

 綾辻行人著「殺人方程式(講談社文庫)」からのお言葉です。冷静に考えますと、プーリーのトラブルでチェーンを繋ぎ変えねばならない場面など中々ありますまい。しかも私がちょうどそこに出くわす確率なんて・・・。更に云えば、私はその希有(けう)な出来事に既に遭遇してしまった訳でありまして、同じようなトラブルに、今後再び遭遇する確率を考えますと、限りなく小さな機会を想定する事になるのは分かっております。それでもお手柄の味は密の味。今後も限りなく低い確率の為に、過大な装備を携帯し続ける日々は続きそうであります。ま、ツーリング時にこういうヤツが一人居ると、便利は便利なんすけどね。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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