は健康ブーム真っ直中と云われています。数年前までは比較的珍しかったロードバイクでの通勤も、最近では至って普通の光景となりました。その事自体は良いのですが、この「健康ブーム」という言葉に違和感を覚えるのは私だけではありますまい。
自転車に乗らない方ほど、「自転車は健康に良い」と信ずる傾向が強いように思います。ロードバイク乗りの方にはお分かり頂けると思うのですが、ほとんどのローディは、実際には、健康の為なんて目的なんぞあまり意識しておりません。単に自転車に乗るのが楽しいから乗っているのに過ぎないのであります。逆に健康増進を第一の目的として自転車に乗っている方は、自転車趣味自身があまり長続きせず、いつの間にか乗らなくなっちゃう傾向が強いようにも思います。
確かに自転車に乗るようになると体重は減り、安静時心拍数も落ちて参ります。肝機能数値の改善が見られる方もいらっしゃるでしょう。しかしそれは単なる結果に過ぎないのであって、決して健康になる事を目的として自転車で出掛けている訳ではありません。想像するに、健康ブームと云う言葉は、自転車に乗らない方が言い出したモノなのではないでしょうか。
そもそもロードバイクに乗る行為は、健康に良い事ばかりではありません。例えば、都下のサイクリストに鬼の和田としてリスペクトされている和田峠。このガツンとパンチの効いた激坂を登りきった際の達成感は格別であります。この達成感を味わいたくて、和田にアタックしてしまうのですが、私のような貧脚のヘニョピリンでは、登坂速度は時速一桁台。ペダルをクルクル回すなんて程遠く、ほとんどヒンズースクワット状態となります。登板中は心拍数が180bpm台から落ちてきません。これは間違いなく体に悪い。サングラスが曇る位の滝の汗をかきながら、エッチラオッチラ激坂を登る行為は、健康とは対極をなす不健康な我慢大会と呼んで差し支えないでしょう。和田峠を登る度、己の寿命が縮んでいくのを感じる程であります。
誤解を恐れず言えば、多くの坂好きのサイクリストはマゾヒストに相違ありません。寿命が縮む程の坂に好んで出掛けるのは、巷で云われる「健康ブーム」のまさに逆を行く行為。自転車にのめり込めばのめり込む程、結果として身体へのインパクトは増加し、不健康になっていきます。自転車は健康に良いという神話は、ある運動強度範囲を超えないという前提でのお話なのであります。
巷にはこうした自転車についての健康説・不健康説が交錯し、何が正しくて何が間違っているかが、より不明瞭になりつつあると申せましょう。
こんな夜中に珈琲は駄目。お酒にしないと体に悪いわ。
柳美里著「ルージュ」(角川文庫)からのお言葉です。「本当かよ」と思いながらも「そうかも知れない」と妙に納得する部分もある。健康ブームにまつわる意見には、かなり眉唾な説も含まれているように思います。実際には健康だろうと不健康だろうと、私にはあまり関係のない事なんですがね。趣味趣向に目的を求めるのが、そもそも間違いなのです。楽しいから自転車に乗る。私の場合、ただそれだけの事なのでありました。それにしても「お酒にしないと体に悪いわ」なんて洒落た言葉を、一度で良いから掛けて貰いたいと思う私でありました〜。
【つづく】
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