在の私の主力機(自転車)は、ボンバー号(通称:ピンクちゃん)であります。こいつが完成するまでの顛末記は、拙文「新しい自転車を手に入れろ!」をご覧頂くと致しまして、本日は、購入主/発注主として仕様を決定していく難しさについて、話を進めて参ろうと思います。
自転車のような機材スポーツにおきまして、利用目的や方向性を決める行為が、機材選択作業のうちの大きなウエイトを占める事は自明でありましょう。ましてやピンクちゃんのようなオーダーフレームであれば、メーカーが想定し指定する「雛形」なんぞ存在しない訳ですから、方向性の模索も含め、あらゆる使用状況を想定しながら仕様を決めていかねばなりません。
ツールドフランスに出場するようなプロロード選手達からの高度な仕様要求は、それはそれはシビアであると聞きます。同じ選手であっても完成形と呼べる単一のジオメトリ仕様を持っている方は稀との事で、山岳ステージであったり、平地のスピードレースであったり、はたまた石畳区間の長いレースであったりという状況の変化に合わせ、自転車の仕様を変えているのだそうです。
勿論私はプロ選手とは対極に位置するオサ〜ン自転車乗りですから、シチュエーションに合わせて複数の仕様のフレームを用意するなんて贅沢が許されよう筈がありません。そこで私のピンクちゃんは、ある意味様々なシチュエーションに対して、一台でオールマイティに対応し得る仕様となっています。あ、スミマセン。こんな書き方をしますとあたかも自分で仕様を決定したかのような誤解を招く恐れがありますね。具体的な仕様はマングの大将に決めて貰ったのでありましたよ。
ちなみに私が大将に伝えた性能に関する要求は、次なようなものでした。
80Km〜160Km程度のサイクリングに出掛けて疲れにくい自転車。集団走行の想定されるレースでの使用は考えていない。でもマウント富士ヒルクライムには出るかも知れない。60歳代になっても和田峠を足付き無しに登れる事が理想。ただし、激坂でのタイムは全く気にしない。漕ぎ出しの軽さよりも楽に30Km/hで巡航出来る事が優先。 |
こうした曖昧模糊とした要求を元に、具体的なジオメトリやパイプ材質を決定し、しかもそれがドンピシャに乗りやすいのですから、私がマングの店長の事を「稀代のインタプリタ」とか「自転車界の伝道師」とか呼ぶのも納得して頂ける事でありましょう。いやぁ、見掛けはアイスクリームの大好きな普通のおじさんに過ぎないんすけどねぇ(笑)。
こうした伝道師が身近に居ない場合は、自らいくつかの仕様を切り捨てていく必要が生じるでしょう。例えばの話、楽に乗りたいがスポーティさがスポイルされるのは嫌だ、というのは我々が持つ当然の欲求でありますが、実際にはコンフォートモデルを選択するかそれともスポーツモデルを選択するかという究極の決断を強いられるのが、現実というものであります。両立を求めたいのは山々です。しかし帯に短し襷に長しな中庸なものになるのは何としても避けなければなりません。大枚をはたいてトロンとした特徴の無いものを買うのは愚と云うものでありましょう。どういった用途や仕様を優先するか。まさに悩みどころです。ロードバイクは高価ですから、適当にホイホイと買う訳にはいきません。どうしても譲れない部分を守りつつ、涙をのんで仕様を捨てていき、最終的なコンセプトを煮詰めていく作業は、苦しくもワクワクする行為であったりします。実はこうやって悩んでいる時が一番楽しいんですよね。
何を捨てるかで誇りが問われ、何を守るかで愛情が問われる。
桑原晃弥著「スティーブジョブズ神の遺言」(経済界新書)からのお言葉です。至言でありましょう。ここを楽しまないで衝動買いをしてしまうのは、勿体無いの一言に尽きます。十人のローディーが居れば十通りの悩みが存在した訳でありまして、他の人のこうしたお話をお聞きするだけでも凄く楽しいのであります。自転車仲間の呑み会ってこんな話題だけで何時間も盛り上がれますもんねぇ。自転車にお乗りにならない方からみれば、きっと理解不能な図なのでありましょうなぁ。
【つづく】
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