転車で坂を登っていて途中で足を着いてしまう事は、割と少なくなりました。根性がついたのでもなければ体力が向上したのでもありません。狡さを身につけたのであります。
余程の激坂を除き、自分のペースを崩さなければ、足着きなしの登頂はそれ程難しいものではありません。逆にタイムを追い求めたり、前走者を追いかけたり、自分のペースが崩れた状態での登坂は、みるみるパフォーマンスが低下していくのが分かる程、過酷なモノになります。タラタラと省エネで登坂する狡猾なやり方を駆使する事で、こんな私でも何とか坂を登れるようになったという訳であります。
先日、相模湖のダヤンカフェに行こうと、大垂水峠をタラタラと西進しておりました。前方200m程のところに10台位のロードバイク集団が見えます。私と同じように相模湖に行くべく峠を登っている人たちであります。よし、あの集団に追いついてみよう。そう決心を固め、漕ぎに集中します。
八王子あずさ霊園を過ぎた辺りでやっと集団に追いつきました。見たところ大学生らしき男女混合のグループです。ロードバイク半分、クロスバイク半分といった構成。自転車を右に振って追い越しを掛けようとします。と、いつの間にか私の後ろに一台のロードバイクがついているではありませんか！いつの間に後ろにつかれたのでしょう。後方確認する瞬間、眼が合いました。ややや、妙な雰囲気。
集団の走行を邪魔しないように右側に膨らむ形で抜かしに掛かります。車道に張り出していますから、なるべく速やかに抜かそうと考えて、立ち漕ぎに切り替え、グイグイ登ります。心拍180bpm。意外にこういうシチュエーションが苦しいんですよね。無言で抜くのも変なので「こんちう〜す」と集団に声を掛けながら抜かしていきますと集団の中の一人が「うわ、すげ。こんなところで競争っすか」と宣うではありませんか。はっと右を見ると例のロードバイクが私を抜かそうとしています。道路交通法で言うところの二重追い越し。やる気満々です。よ〜し、なんか速そうだけど、とりあえずコイツについていく事にします。女の子も見てるしね。
超速かったらすぐ諦めるつもりで奴の後ろにピタっとつけました。デローザのカーボンバイクです。でもジャージはピナレロ。変わった人であります。
ちょっと安心しました。ダメダメな私でもちょっと無理すればついていけそうなペースです。相手は私と同じただのオサ〜ンなのでありました。ちょっと失礼かなとも思いましたが、ピッタリ後ろに張り付きます。ま、いいやね。無言で無理に抜いたのはそっちだしね。東寒葉橋付近で相手のペースがちょっと落ちてきました。むむむ。こちらも汗ボタボタで心拍180台半ば。全然余裕がない状態ではありますが、ここは抜かすチャンスであります。思い切って1段重いギアに入れ、立ち漕ぎで抜かしに掛かります。
よ〜〜〜し、抜かしました。えへん。どうだ。俺の。方が。速。いん。だぜ。
げ。何と、奴は再度私を抜かそうとしているではありませんか。うえ〜ん。もう足も体力も根性も残っていません。しょうがないもんね。別に勝負に負けたっていいもんね。俺、十分に頑張ったもんね。勝負しようなんて一言も言ってないもんね。俺、今日は、サイクリングに来てるだけだもんね。
でもそれ、自分で決めたんだろ
辻村深月著「スロウハイツの神様」（講談社文庫）からのお言葉です。そうなんですよ。追い掛けるって自分で決めたんですよ。なのに最後の最後に言い訳を使ってしまいました〜。頂上まであとたった200mだったというのに〜。なんか最近、常に言い訳を探している私なのでありました。あ〜、かっこわる。
【つづく】
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