道521号線、通称、陣馬街道を西に向かいますと、陣馬高原下から頂上まで激坂区間が続きます。都下のサイクリストに「鬼の和田」と呼ばれリスペクトされている、和田峠であります。
この峠、距離的には3.6Kmと大した事はないのでありますが、平均勾配が10.08%と、その斜度は半端ではありません。ゆっくり登れば足つきなしで頂上に着く事自体は可能とはいえ、それにしても決して楽に登れる峠ではないのです。和田峠のタイムは、陣馬高原下のバス停前の廃屋の柱をスタート地点とし、和田峠石碑前をゴールとする区間の走行時間によって測られます。この区間で20分を切ると、ヒルクライマーとしては一人前と言われております。
八王子市川原宿交差点を西に入ると、道は急に田舎の雰囲気に包まれます。恩方の集落を抜け、北浅川沿いを縫うように進むと、川面を流れる涼しい風が心地よく、道は登りではありますが決して激坂と呼ばれるようなものではありません。勿論登りですからオーバーペースでは疲弊してしまいますが、普通に漕いでいけば、じきに夕焼け子焼けふれあいの里が見えてきます。
私は和田に行く際の往路はいつも、夕焼け子焼けふれあいの里には立ち寄らないようにしています。この先、道は恩方第二小学校の角を左折して、一気に山道区間に入る事になります。決して楽な道ではありませんから、往路に夕焼け子焼けでしっかり休んでしまうと、もうここに来ただけで満足してしまって、肝心の和田峠に登らず帰ってしまいそうで、敢えて寄らないように自分を律しているのです。
和田峠は、登りきった達成感はありますが、その区間を走って楽しい道ではありません。ほとんど修行の世界。今までに何度となく登ってはいますが、慣れると云う事の無い過酷な道です。未だに必ず途中で足を着いちゃおうかどうしようか悩みますからね。
夕焼け子焼けまでの麓の区間は、景色のよい空気の旨い、それでいてそれなりの登り勾配で、サイクリングとしてはかなり満足の出来るルート。対してここから先は、修行とも呼べる急勾配が続く過酷な道。折り返すのは簡単です。既にサイクリングとしての満足感も爽快感も味わい済みな訳ですからね。でも、一度でもここで折り返したら、もう二度と和田峠に登れない体質になってしまいそうで、往きに夕焼け子焼けに寄る事は、厳に禁忌としてきたのであります。
敬遠は一度覚えるとクセになりそうで
あだち充のマンガ「タッチ」の中の上杉達也のお言葉です。夕焼け子焼けで休まないで一気に和田峠を目指すという、一見ストイックな行動は、実はすぐになれ合ってしまう意志薄弱な私の性格を押さえ込む為の、苦肉の作戦なのでありました。
7月17日(日)は、URIBOZの仲間と小仏峠の珈琲自家焙煎の店ふじだなで午後1時に待ち合わせをしておりました。ふじだなに直行するのではあまりにも近過ぎますので、和田峠に登頂してから小仏に向かう事にして、万願寺基地を出発。約束の午後1時には十分に余裕があります。すると程なく、ともちんさんに遭遇。結局一緒に和田峠に向かう事になりました。
浅川に掛かる水無瀬橋から陣馬街道に入り、二人で先頭交代しながら和田峠を目指します。恩方のだらだらとした登りを時速30Kmで快調にとばします。ひゃ〜、こりゃ快調を通り越して、かなりキツいペース。普段一人で和田に向かう場合、こんなハイペースで漕ぐ事はありません。ともちんさんの前に出て蓋をする形でペースダウンさせなければ、という一心で、無理矢理ペダルを踏んで彼の前に出ます。前方に割り込んでいきなりブレーキを掛けるのは危険ですから、ある程度の区間は30Km/h超のハイペースで前を引き、徐々に彼のスピードを落とさせようと試みるのですが、そうすると今度はともちんさんがペダルを踏み込んで私の前に出てしまいます。
ペースを落とそうとしているにも関わらず、結果として30Km/hを割り込む事無く、ハイペースで先頭交代しながら、夕焼け子焼けに到着。もう限界です。心拍は170台後半。普段は敢えて寄らないようにしている夕焼け子焼けの里ですが、たまらず避難です。
汗はダラダラ、喉はカラカラ。ともちんさんとアイスを食べて休憩です。ひゃ〜生き返る〜。やはり疲れた時はアイスに限りますなぁ。ここで、はっちさんから入電。はっちさんも和田峠に向かっていて、もう少しで夕焼け子焼けに到着するとの事。おお。それじゃ折角なんで、はっちさんをお待ちしようという事で、結局トータルで1時間以上も夕焼け子焼けでダラダラしておりました。
はっちさんが到着するも、既に心は折れてしまっている状態。誰が言い出すでもなく目と目で合図しながら登頂断念を決定。いそいそとランチに向かったのでありました。
あれ程厳格に禁忌としてきた、夕焼け子焼けでの折り返し。ついにやってしまったのでありました。もしかしたら、もう二度と和田峠にアタック出来ない体質になってしまったかも知れません・・・。マズいなぁ。
【つづく】
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