転車に乗っていて一番嬉しい事は、自らにまだ体力的な成長の余地が残っていた事に気付ける点でありましょう。老眼も始まりつつある齢四十五にして、練習によって登坂タイムが向上していく驚きと喜び。体力的には当然下降するばかりと思っていたにも関わらず、自転車に乗り初めてこの数年、安静時心拍は40台にまで下がり、登れなかった峠も足付きなしで到達出来るようになりました。これってスゴい事だと思いませんか?
自然の摂理から考えれば、中年以降は年々体力が落ちていくのが普通でありましょう。歳をとっても一定以上の水準を保とうとすれば、若い頃、いかに高いレベルまで到達出来ていたかが鍵になるのだと、長い間盲信しておりました。いわば若い頃の貯金を取り崩して生きていくという、マイナス思考的な発想であった訳であります。
実は、体力も貯金も非常に似たロジックに沿っていて、現在どのレベルにあるかとか、口座に残高が幾らあるとかって、メンタルな面から考えますと、それほど重要ではない事に気付きます。それよりも大切なのはベクトルでありましょう。体力なら向上しつつあるのか、貯金なら増加しつつあるのかといったベクトルの「向き」の方が、はるかに精神的な充足度に与える影響は大きいと思うのです。どんなお金持ちであっても、年々貯金残高が減っていくという事実を前に漠然とした不安を抱くのは当然であります。逆にどんなに倹しい生活であろうとも、年金の中から少しずつでも貯金に回そうとするのが、人間の性ってヤツであります、
40半ばを過ぎ、体力的な面では既に枯れていくだけと諦めていた自分が、努力する事で向上出来るのだという事実を実感し得た事は、自転車に乗るという趣味における、最大の喜びでありました。よ〜し見てろ、次の機会にはきっとクリアしてやる。向上の予感はモチベーションを奮い立たせます。今、多くの中年世代がロードバイクに傾倒していくのは、こうした嬉しい驚きと熱いモチベーションを持てる故なのではないでしょうか。まさに青春時代の再来であります。
若い奴に抜かれてもへっちゃら。逆転を諦めているのではありませんよ。覚えてやがれ、次は負けないぞ。向上が予感出来るからこそ、モチベーションが維持出来るのだと思います。そういえば若い頃って、常にこういう思考だったよなぁ。未来があると思えば、負けも苦にならないばかりか、努力の為のバネに転化出来るのでありますよ
明日のために、今日の屈辱に耐えるのだ。
西崎義展原作、宇宙戦艦ヤマトの中での沖田十三艦長のお言葉です。ガミラス帝国の理不尽な攻撃を受け敗走を続ける地球防衛艦隊において、玉砕覚悟の最終攻撃を進言する部下からの具申をいなし、負け戦を甘んじて認め、戦線からの一時離脱を決意する沖田艦長には、信ずる事の出来る「明日」が見えていたのでありましょう。
自転車にはこれに似た「自らの明日」を感じさせてくれる特別な魅力があります。ロードバイクという趣味に出会えて本当に良かったと、大いに実感する瞬間です。
【つづく】
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