年前と比較して、街を走るスポーツ自転車は激増しました。コンビニにレーパン姿で入っても奇異な目を向けられる事もなくなりましたし、車道の左側を走っていて後続の自動車に不当な幅寄せを食う回数も減りました。ロードバイクに対する、一般市民の認知度が上がる事のメリットは、かなり大きいと申せましょう。
しかし周りの認知度向上に頼りきって、ラフな運転をする自転車が増えつつあるのも、また事実。こうした事案を何とかしない事には、ロードバイクの地位向上は望めそうにありません。
少し前まで、「え?自転車って車道を走って良いの?」という認識の方がたくさんいらっしゃいました。ロードバイクで車道左端を走行中にクラクションを鳴らされ、「危ねぇな!自転車は歩道に上がれ!!」と云われた事も実際にあります。みなさまご存じかと思いますが、自転車は道路交通法上は車両になりますので、原則として車道の左側を走る事になります。一部の歩道に関して「歩道を走っても良い」と記されているだけでありまして、歩道を走らなければならないなんて事は全くありません。
ロードバイクは車道の左端を走行するもの。こうした認識がみなさまに行き渡ったのは我々自転車乗りにとって朗報と申せますが、この事を「当然の権利」と誤って認識しているローディの方が増えてしまったように思います。本来道路は譲り合って使用すべき公共物であって、特定の車両の為のものである筈がありません。例えば道路左側を走行中、駐車車両を避けようとして、何の後方確認も無しに右にはらむ自転車が見受けられます。彼にしてみれば悪いのは駐車車両であり、自分は当然の権利としてこれを追い越しているのだ、という意識かも知れませんが、とんでもありません。後方を確認し、後続車両に自分の意志を伝えてから右に出る事。これは方向指示機を装備していない自転車にとって、最低限取らねばならない道路上のコミュニケーションであります。
私たちに言葉なんか必要なかった。言葉なんてまるで役に立たなかった。
江國香織著「神様のボート」(新潮社)の中のお言葉です。「減速せよ、俺が先に出る」「追い抜いて先に行ってくれ」。こうした道路上の意思表示は多くの場合言葉ではなく、身振りで伝えられます。そしてその行為は、言葉よりも余程的確にかつ瞬間的に、その意志を伝える事が出来ます。
道路は全ての車両でシェアすべき公共物である事。意志疎通の為のボディランゲージを適切に使用する事。自らの安全の為にも自転車の地位向上の為にも、遵守すべき事であると改めて思うのでありました。
【つづく】
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