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  今週のお言葉  

 

 峠にアタックする際、最も重要なのはペース配分でしょう。たまらず足をついてしまうという状況は、実は坂のキツさよりも、どういったペースでアプローチするかという事に、より多く依存致します。

 激坂と云われる坂でも、適切な速度でアプローチすれば、ほとんどの場合、足つき無しで登る事が出来ます。えぇ?無理だよ。どんなにゆっくり進んでも和田峠では足をついちゃうよ、という方は、もしかしたらそのペースが遅過ぎるのかも知れません。速過ぎても遅過ぎても、単位距離当たりの必要エネルギーは大きくなってしまいますからね。ペースが遅ければ単純にその分楽になる、という訳ではないのです。

 和田峠で、歩く速度と同じ位かそれ以下で登坂している自転車を見る事があります。そのペダリングは既に回転運動とは呼べない領域に入っていますから、結局ヒンズースクワットを続けているのと同じで、すぐに筋肉が悲鳴を上げてしまうのも無理からぬ話でしょう。軽いギアで足をクルクル回す乗り方が出来れば、筋肉へのインパクトを循環系への負担に変える事が可能になります。循環系への負担は、勿論それが過度であっては無酸素運動になってしまう訳ですが、基本的には有酸素運動、いわゆるエアロビクスですので、ヒンズースクワットのような筋肉依存の運動と比較すれば、割と長時間の出力維持が可能となります。

 そうは云っても、一旦落ちてしまった速度を回復するのは困難で、それが激坂であれば尚更であります。如何に速度を落とさず一定のペースで登り続けるかが、登坂のコツであるとも云えそうです。

 逆に一定のペースよりも速いスピードを目指すと、循環系への負担が急速に大きくなって参ります。心拍数が高くなる状況です。心拍数を上げる事で、ヒンズースクワット的な筋肉負担を減らせるというお話をしましたが、心拍数の増加があまりに大きい、すなわちAT値を越えるような心拍数まで上昇すると、酸素交換や乳酸の代謝が間に合わなくなり、結局、無酸素運動領域に入ってしまうのです。無酸素運動では筋肉に急速に乳酸が蓄積していきますから、短時間で限界がやってきてしまう事になります。

 このように高過ぎず低過ぎない、ある一定の心拍範囲内で、しかも過度な筋肉負担を抑えて軽いギアでペダルをクルクル回す事が、より効率の良い登坂に繋がる訳です。その為に、私を含め多くのサイクリストが心拍計を装着し、モニターしながら登坂しています。心拍計を導入する事で、結果として足つきの率は激減するのであります。心拍計は自転車の物理的性能とは無縁だから買わないとお考えの方がいらっしゃいましたら、騙されたと思って是非とも導入して下さいまし。目から鱗が落ちる事、間違い無しで御座います。

 一定のペースの維持が安定した登坂に効果的である事は、衆目の一致するところでありましょう。ところが事はそんなに簡単ではありません。人間は競争を好む動物であります。タイムだって気になりますし、抜かされれば腹も立ちます。好タイムを追い求めたり、前走者に無理についていこうとしたりすると、一挙に体力を無駄に消費する事に直結して、足つきのリスクは急速に高まってしまいます。坂で足をつくのは体力が無いからでも根性が無いからでもありません。適切なペースで登っていないだけなのであります。

 ゆっくり行くと、日射病にかかる恐れがあります。けれども、急ぎ過ぎると、汗をかいて、教会で寒けがします。

 アルベール・カミュ著「異邦人」の中のお言葉です。結局のところ、物事のほとんどはバランスの問題なのかも知れません。出し惜しみしていては登れない。しかし、過ぎたるは及ばざるが如し。自転車も仕事も人間関係も、バランス感覚が大切という意味において、非常に似ていると言えそうであります。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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