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  今週のお言葉  

 うちの子供らを見ますと、高校生と中学生の癖に、ちょっと信じられない位ぶきっちょでありまして、自転車のパンクも直せないのであります。私が幼少の頃、おそらくは小学校5〜6年で、既に普通にパンクの修理や自転車の改造なんかしていた記憶があります。あの頃はそれが普通だったんですよね。

 壊れたら父ちゃんに直して貰えば良いや。これがうちの子供らの考えであります。私も子供の頃はそうでありましたけれども、ただ見ているに留まらず、父親が修理しているのを見て自ら修理する事に興味を持ちだし、見よう見まねで直してみたのが始まりでありました。私の父、つまり彼らの祖父(じい)ちゃんは、実は不器用なのに、自分は機械に強いと信じている、典型的な昭和の家長でありまして、結局は未だに自転車のパンクの修理はまともに出来ないは、車のタイヤ交換も怪しいは、エンジンが掛からなくなったら静岡トヨペットに電話をするしかないは、パソコンを使う事はおろか、テレビの番組予約も出来ないは、という状態なのであります。現在のうちの子供らの惨状は、もしかしたら祖父ちゃんからの隔世遺伝かも知れませんなぁ。

 小学校に上がってから実は自分の父が不器用である事に気付き、それを指摘しても状況が好転する訳じゃない事を本能的に感じて、父親の修理をあてにせず、自ら直す道を選択したのでありました。

 自分が不器用だという人の大半は、気が利かないだけなんじゃないかな。

 湊かなえ著「少女」(早川書房刊)の中のお言葉です。不器用な人の多くは、段取りが悪いように思います。事前に準備や想定をせず、いきなり物理的な作業に着手する。これでは何ををやっても上手くいく筈がありません。ミスも多いし、時間も掛かる。爺臭い事を言わせて頂ければ、昔から段取り八分(だんどりはちぶ)と申しましてですね。きちんと段取りを済ませておけば、その時点で全体の作業の80%は既に完了しているのと同義なのでありますよ。それ程、段取りは大切って話。

 今の子供らはプラモデルを作りませんからなぁ。あれは段取りを覚えるのに最適な玩具だと思います。私が小学生の時、男の子が買って貰いたい玩具ナンバーワンでした。そりゃもう小遣いの続く限り作り倒しましたよ。戦車とか飛行機とかオートバイとか車とかね。

 プラモデルをまともに作った事のない人に限って、「ありゃ駄目だ。決められた通りの手順で組み立てるだけだから、独創性が育たない」ってな事を(のたま)います。馬鹿言ってんじゃねぇよ。段取りの悪りぃお(まい)さんと一緒にしねぇでおくれよ。そんな簡単なもんじゃねぇんだってば。

 プラモデルというのは、まずは組立図に書き込みをするところから始めるべきなのです。プラモデルは精巧に出来ているようで居て、あれで結構、誤差やバリも多いのであります。少なくともそのままでは接合部分がスジ状に残ってしまう。故に接着剤で接合した後、パテ埋めをして、サンドペーパーを掛けた後、塗装しないといけない。単に塗装と云っても簡単ではありません。単体部品で塗っておいて後から接合するか、それとも接合した後、塗装するか。単色ならば最後に一発塗装も有りですが、色を変える場合、マスキングして塗り分けるか、部品単体で塗っておくかを考えなければならない。理想的にはマスキングです。塗った後接合すると、必ず接合部のスジが残ってしまいますからね。ところがマスキング塗装は手間が掛かるし、形状によってはマスキングが不能な場合があるのです。

 こうした複雑な要因を考えあわせて、工程を考えてそれを組立図に書き込んでいく作業が、プラモデルにおける「段取り」な訳です。

 しかもプラモデルに使う接着剤や塗料は乾くのに時間が掛かります。瞬間接着剤なんて絶〜対に使いません。あれは揮発成分が白く粉を吹いたように周りに蒸着しちゃうのであります。やはりプラセメントと呼ばれる、ふたの裏に刷毛のついたプラモデル専用接着剤を使うべきなのです。この接着剤が乾くのを待つ間、パテ盛りした部分をペーパーで削って、更にボディ部分のサフェーサ塗装(下地塗装)までやって今日の作業は完了、ってな具合にきちんと工程を組んで作業しないと、母親に叱られちゃう。「何時だと思ってんの!もう寝なさい!」こう云われたら寝るしかありません。逆らっていると大切なプラモデルを捨てられてしまうからです。エポキシパテは練った瞬間から硬化が始まります。待った無し。母の恫喝も待った無し。工程を組んで所要時間を読む。今日はどのブロックまで作業を進めるかを策定する。だからこそ、工程管理、すなわち段取りが大切になるのであります。

 当時の大人は、「手先が器用な奴がプラモデルを上手く作れる」と思っていました。実は違うんだなぁ。段取りが良い奴がプラモデルが上手なんです。美しく早く作る。同じプラモデルとは思えない程。精度も美しさも雲泥の違い。これって、社会人になってからの仕事の能力にも、大いに関係するんじゃないかなと思うんです。

 今の子供たちはこうした貴重な学習機会を捨てて、馬鹿のようにゲームばかりやっています。コンピュータ・プログラムとはマシンに対する段取り指示そのものでありますから、ゲームを購入してそれで遊ぶだけというのは、他人によって段取りされたものをただ使っているだけと云う事と同義です。これでは馬鹿になりこそすれ、いつまでたっても段取り力がつかないのは、むしろ当然と云えましょう。

 学校の授業なんかよりも、よっぽど有意義な学習機会が急速に失われつつある今、日本の将来が大いに心配であります。いやマジで。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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