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  今週のお言葉  

 

 自転車という乗り物は本当に正直であります。いや、自転車が正直と云うより、心肺機能は正直と云った方が、より正確かも知れません。

 初めて鬼の和田峠に行った時、ここを足付き無しで自転車で登るなんて何年掛かろうが自分には無理だ、と思いました。途中から自転車を降りて押し歩きしながら、何とか頂上のお婆の茶屋には到着しましたが、二度とここには来るもんかと心に誓った事を記憶しています。ほぼ半泣き状態でした。翌日は全身筋肉痛。足だけでなく、背中や肩や首などにも相当な力が入っていたものと思われます。勿論、今に比べれば自転車に乗り始めたばかりですからペダリングスキルも滅茶苦茶でしたし、そもそも決定的な運動不足で体は鈍りきっている状態でありましたから、当然といえば当然だった訳ですが。

 しばらくして、再び鬼の和田峠にチャレンジする機会が巡ってきました。平地メインとは云えそれなりに自転車に乗るようになっておりましたし、自分がどれ程成長したかを見てみたいという気持ちも正直ありました。途中、何回か心が折れそうになりました。ジャイロ効果発生限界近くの4Km/hまで速度が落ちる事もしばしばでした。しかし2回目の和田峠は何とか足付き無しで登頂する事に成功したのであります。やれば出来る。この登頂成功は、私に大いなる自信を与えてくれました。

 それから何度か和田峠に登るうちに、今度は登坂タイムが気になって参りました。和田峠の場合、陣馬高原下バス停の廃屋の柱をスタート地点に、頂上のお婆の茶屋の向かいの石碑までの所要時間を競うのが一般的と言われています。いかにこのタイムを削るか。その為にはどのラインを通り、どこでスパートを掛けるべきか。いつしか私は、こうしたTT(タイム・トライアル)としての和田峠登坂に傾倒していったのでありました。車で現地入りし、ホイールを変えて2回連続登坂、などという実験的な試みまで行なったのであります。

 ついに新記録が出ました。勿論、私自身としての記録です。早い方はたくさんいらっしゃって、私の記録など取るに足らないものである事は承知しております。でも自分なりに目標として設定した、和田峠20分というハードルをクリア出来たのであります。やった〜!俺って凄いじゃん!この時は嬉しくて嬉しくて、天にも昇るような気持ちでした。

 20分の記録を打ち立ててしばらくしますと、和田峠に初雪が降りました。都下とは云え山岳地帯でありますから、下界に比べれば気温もかなり低く、路面も濡れてコンディションが悪くなります。こうして和田峠のシーズンは終わり、春までは平地メインのサイクリングに切り替える事になりました。

 春になって、そろそろ山の雪も消えた頃、その年初めての和田峠にいってみる事にしました。和田峠は20分で登れる。何の疑いも無くそう思っていました。半年のブランクがありましたが、自分の中での標準値は和田=20分だったのであります。

 惨敗でした。たった半年のブランクでこんなに心肺機能が落ちるとは想像出来ませんでした。最初のきつい左ヘアピンに達する前に、既に体は悲鳴をあげていました。流石に足付きは無かったものの、タイムは25分近く。泣きそうです。こんな筈じゃなかったのに。しかも藤野側に下りきった後、藤野駅に続くトンネルへのちょっとした登りで足が攣ってしまう始末。どうなってるんだコレ。あまりの腑甲斐無さに、自己嫌悪にすら陥りました。

 いいか、過去や評判が走るんじゃない。いまのきみ自身が走るんだ。惑わされるな。振り向くな。もっと強くなれ。

 三浦しをん著「風が強く吹いている」の中のお言葉です。箱根駅伝を舞台にした青春ストーリー。同名で映画化もされました。そうです。勝負はその瞬間ごとの戦いなのです。過去の実績なんて、その日の勝負には何の役にも立たないのでありました。

 仕事において、経験の有無が重視される事があります。その「経験」が現在進行中のモノか、それとも過去の栄光や思い出に分類されるモノかを判断する事無しに盲信してしまう行為は、その「経験」がより重要な仕事やデシジョンであればある程、ある種の危険が付きまといます。

 誰も嘘をついていないし誰も虚勢を張っていない。しかしこうした盲信は簡単に発生します。経験を過去のモノにしないように継続に努める事。常に自分の状態を客観的に観察し現状を把握する事。相当難しい事ですが、こうした生き方は私の理想でもあります。

 とは云えかなり「夢」に近い理想ではありますがね。だって私が知る限りこの2つの戒律を守り通せているのは、通称ゴルゴ13と呼ばれる、デューク東郷氏だけしか居ないのでありますよ。彼は、漫画家さいとうたかを氏の作品の作中人物でありまして、勿論、実在している訳ではありません。ただ私は虚構とは云え、デューク東郷氏の生き方に憧れているのでありました。え?コミックス?えぇえぇ、リイド社のゴルゴ13シリーズは全巻所有しておりますよ。今でも時々読み直したりしております。私にとってゴルゴ13シリーズは一種のバイブルなのでありました。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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