あれこれ memorandoms やすなべ categorized Yasの状況 activities Yasについて about Yas Yasへの連絡 contact us

  今週のお言葉  

 

 メタルギアソリッドというゲームをご存じでしょうか。コナミがプロデュースする、いわゆるスニーキング・アクションに分類されるゲームです。プレー画面だけを見ると単なるシューティングに見えなくもないですが、ちょっとでも派手な動きをして敵に発見されると無線で連絡を取られ、あっと云う間に囲まれてゲームオーバーになってしまいます。

 「スニーキング」を辞書で引いてみましょう。

 sneaking:【形容詞】こそこそしている・卑怯な

 「He is sneaky!」は、「彼は卑怯である」という表現ですから、スニーキングという言葉は、一般的にはネガティブな意味で使われる事がほとんどだと思います。

 スニーキング・アクションであるメタルギアソリッドは、その名の通り、敵に発見されないように、"こそこそしながら"ミッションをクリアしていくゲームです。ゲームカテゴリとしては非常に斬新です。今までのアクションゲームといえば、不必要なまでに派手にドンパチ撃ちまくって、壮快な気分を味わうというモノが主流でした。しかしこれは、ゲームだからこその感覚と云えます。実戦ではたった一発食らっただけで死に至るか、そうでなくても相当の被害を被るのは確実ですから、自分の生命が掛るとなれば、 sneaky に行動する事は自然な事です。シュワルツネガーやスタローンのアクションは、映画の中だけの行動なのです。そういう意味でスニーキングという考え方は、実際の戦闘により近くて、リアルな感覚なのでしょうね。

 メタルギアソリッドというゲームが名作として多くのファンを集めているのには、通常のシューティングゲームが反射神経に依存する割合が高いのに対し、反射神経のみならず、更に高度な戦略性を要求される点によるところが大きいと思われます。何の変哲もないアイテムを、隠れ蓑として使ったり、また逆に敵の意識をそれに引きつけて裏をかいたりといった、戦略行動の多様性や、その為の観察力や洞察力が重要視される点が、実戦に必要とされる能力とかなり近い事も、迫真性を増す事に寄与しています。グラフィックの忠実性だけでなく、戦略性のリアリティをも向上させる事で、メタルギアソリッドは単なるゲームという枠を越え、戦闘シミュレータと呼ぶべきクオリティを得ているのです。

 私は昭和40年生まれですから、平安京エイリアンやインベーダーゲーム、パックマンからを経験してきた、いわばゲーム黎明期を知る世代です。そういう意味ではゲームの進化とともに育ったと云っても過言ではありません。そういう我々の目から見ても、昨今のゲームの異常とも云えるクオリティの高さと、このレベルに至るまでのここ数年の進化のスピードには、驚くべきものを感じます。

 言葉を信じるな。言葉の持つ意味を信じろ。

 メタルギアソリッドの中での台詞です。深いではありませんか。私は普段、全くゲームをしないのですが、今の若い世代の人たちがハマりこんでいく理由がちょっと分かるような気がします。ゲームの中に現実の戦闘を見、実際のモノに近い様々な戦略を投入する事すら可能な時代になったのであります。

 情報化社会と呼ばれて久しい現在、我々の周りには様々な言葉が氾濫しています。言葉はメッセージであるとともに、コマンドでもあります。会話はもとより、テレビから流れ出る、こうした「言葉」全てをくまなく聞こうとすれば、発狂してしまいかねません。実は我々は自らの正気を保つ為に、一日の大半を「聞き流す」事で生活しているとも云えるのです。

 言葉を信じるな。言葉の持つ意味を信じろ。

 言葉の持つ本当の意味を掴もうとすれば、そこには大いなる集中が必要とされます。メタルギアの台詞は、「集中せよ。聞き流すな。」という意味なのかも知れません。

 今年のお盆に、高校野球中継をNHKラジオで聴きながら、車で中央高速を走るという経験を得ました。普段、野球と云えばテレビで観戦する事しかないのですが、こうしてたまにラジオで聴いてみますと、改めてアナウンスの細かさに舌を巻きます。

 ピッチャーは二年生の○○選手。甲子園では初めての先発起用。5回までに既に78球を投げて多少疲れた表情を見せています。同じ中学校出身で互いにエースの座を争うライバルであったショートの△△選手が駆け寄って声を掛けます。笑顔が少し見えましたマウンド上の○○選手。セットポジションに入ります。キャッチャーのサインに首を振る。今サインが決まりました。5回の裏2アウト、ランナー2塁。対するバッターは□□高校4番の☆☆選手。本日はこれまで2打数ノーヒット。地方大会における通算打率は4割5分を超えていますが、ここ甲子園では未だヒットが有りません。しかし一発が有るバッターです。カウントは2ストライク1ボール。セカンドランナー、リードが多少大きいか。セカンドがベースカバーに入ります。ピッチャー、セカンドランナーをちらりと見て、第4球を・・・投げましたボール! 2ストライク2ボール。フォークボールで外角低めに落としてきましたが、☆☆選手これをよく見ました。クリーム色に赤いラインのユニフォーム、□□高校5回裏の攻撃、1点差を追う形です。ここは何としてもタイムリーが欲しい。一打同点のチャンス。さあここは4番の意地を見せたいところ。

 ピッチャーがたった1球投げる間に、アナウンサーは一気にこれだけ喋るのです。映像が無い分、全てを言葉で伝えようとするとこうなってしまうのでしょう。テレビのナイターはビール片手にダラダラ見ていても何となく状況を把握し楽しめます。目からインプットされる情報は思った以上に大容量で、しかも意外に楽にそれらを認識する事が可能です。対してラジオの場合、同様の情報量をアクセプトしようとすれば、もの凄い集中力を強いられます。集中し続けていないと戦況が分からなくなってしまうのです。この日の中央高速はお盆で渋滞していたのですが、渋滞より何より野球中継に集中し過ぎて、ぐったり疲れてしまいました。

 言葉の意味を掴む為には大いなる集中が必要。その事を伝えようとするあらゆる意味でリアルな最近のゲームは、哲学的真理をも提示する高度な表現力を有するメディアなのでありました。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

「今週のお言葉」の目次に戻る

「やすなべ」の目次に戻る

Copyright(C) by Yas/YasZone