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  今週のお言葉  

 

 知らぬ人など居ない程の有名作家である浅田次郎氏でありますが、氏の作家としての知名度は、短編集「鉄道員(ぽっぽや)」で1997年に第117回直木賞を受賞された頃を境に、急速に高まったと云われています。

 実は私、氏がまだあまり有名ではなかった時代からの熱烈なファンでありまして、氏は元々「悪漢小説(ピカレスク)」を得意フィールドとしておりました。名門中央大学付属杉並高校卒業後、自衛隊に入隊し、その後アパレル業界や、更には一説によると暴力団の準構成員まで経験されているそうでありますが、そうした異色の経歴を元にした小説カテゴリが、氏の悪漢小説(ピカレスク)であったという訳です。私は氏のピカレスクが大好きでありましたけれども、あくまでも二流の作家に過ぎないというのが、氏に対する当時の一般的な評価であったかと思います。

 1994年に発表された「地下鉄(メトロ)に乗って」を読んで衝撃が走りました。私は読む事が大好きでありまして、読書量だけは結構なものなのであります。文章を書くのは苦手な癖に、目だけは自然と肥えて参ります。僭越ながらその時の印象は、「この作家は化ける」でありました。文章には風格が漂い、読者を引きつけるストーリープロットも非常に緻密でした。文章が丁寧に丁寧に拵えられているのです。私の直感通り、翌年の1995年に、「地下鉄(メトロ)に乗って」は吉川英治文学新人賞を受賞しました。

 1996年の「蒼穹の昴」で私の抱いていた印象は確信へと変わりました。素晴らしい文章。氏は屈指のストーリーテラーとして、文壇の階段を駆け上がっていきました。1997年の「鉄道員」での直木賞受賞は、氏の実力からいえば必然であったと云えましょう。

 1997年1998年は、氏の爆発の年でありました。「活動寫眞の女」「月のしずく」「珍妃の井戸」「見知らぬ妻へ」「霞町物語」「天国までの百マイル」と矢継ぎ早に小説が紡ぎ出されました。読むもの読むもの全てにおいて涙が止まらないなんて・・・。まさに奇蹟であります。そういえば「鉄道員」のオビには、「あなたに起こる小さな奇蹟」って書いてありましたっけ。

 浅田次郎といえば泣かせるストーリーテラー。そういう認識が一般化するにつれ、逆に、氏の昔の文体、いわゆるピカレスクが懐かしく思えてきました。もう一度氏のピカレスクを読んでみよう。以前 TENZAN NOVELS から出されていた「きんぴか」が光文社から新装再刊になっておりましたのでこれを購入し、再び読んでみる事に致しました。

 いいかおめえら。こうして下せえって拝んでいるうちは、どうにも変わりゃしねえ。こうすっから見てて下せえと神仏に誓って、初めて変わるてえもんだ。人生、そんなもんだぜ。

 痺れました。当時、単なるピカレスクとして読んでしまっていた「きんぴか」ですが、1997年から1998年にかけての氏の爆発的開花の「種」と呼べる珠玉の言霊は、既に仕込まれていた事を知りました。

 奇しくも私の住む日野程久保基地は、浅田次郎氏のご自宅のごくごく近くで御座いまして、程久保、南平とそれぞれ町名は異なりますが、ピタリと隣接するエリアなのであります。氏を心酔し、氏の全著作を読み、その全てを蔵書として保有している私としましては、氏のお膝元に住まわせて頂いているだけで有難き幸せと申せましょう。

 私にとって氏の著作は、まさしく人生の指南書そのものです。

 浅田先生、見ていらっしゃいますか。最新刊の「終わらざる夏」、初版で購入して敢えてお盆休みまで封印し、8月15日の終戦の日に読了するように調節しながら大切に大切に読ませて頂きましたよ〜。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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