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  モーラナイフのブラックコーティング加工  

 

上:新品のモーラナイフ
下:ブラックコーティング済みのモーラナイフ

 先週、キャンプ熱再燃について書かせて頂きました。色々逡巡(しゅんじゅん)致しましたけれども、結局のところ、パーゴワークスの焚き火台を購入してしまいました。13,000円也。そもそも物欲に対して辛抱が足りな過ぎるとか、いくらコンパクトに畳めるからと云ってたかが焚き火台に13,000円は高価過ぎるとか、いい歳こいて欲しいものが小学生チックだとか、我慢出来ずにすぐ買うに違いないと思ってたぜとか、様々なご意見がある事は承知しております。でもしょうがないじゃん、欲しかったんだからさ。ま、折しも Wild One 多摩ニュータウン店ではギフト券還元セールの真っ最中でありましたので、1,500円分の Wild One 商品券をゲット出来ましたぜ。

 コンパクトな焚き火台を手に入れた途端、キャンプに出掛けたい気持ちがモリモリ湧いて参りました。しかし秋分の日を跨ぐ三連休は仕事だし、その次の週はグランフォンド八ヶ岳だし、そのまた次の週は結婚記念日だし、すぐには動けそうにありません。そこで仕方なく、ナイフを研いだりして、キャンプに出掛けたい気持ちを紛らわす事にしました。ま、キャンプにおいて、良く切れるナイフは必需品でありますからな。

 私の所有しているナイフは、モーラナイフ・コンパニオン・ヘビーデューティ。2,500円程度の安いモノですが、スウェーデンの老舗の中々しっかりした製品であります。ステンレスではなく炭素鋼(カーボンスチール)製。ブレード(ナイフの刃)は3.2mm厚ですので、ちょっとした薪割りにも使える頑丈な造りです。

 まずは#600番の荒砥石から入り、#1000番の中砥石、#3000番の仕上砥石に変えつつ、丁寧に研いでいきます。普通はこの程度で十分なのですが、今回は特に念入りに#8000番の砥石を使い、更に皮砥(かわと)も掛けました。皮砥というのは、牛皮にミシン油をなじませそこに研磨用のコンパウンドを(なす)りつけてブレードをこする研ぎ方。昔ながらの床屋さんが、カミソリを研ぐアレで御座いますよ。

 ここまでやると、もうキレッキレの状態であります。熟れたトマトも鶏肉の皮も、抵抗無くスパっと刃が入っていきます。う〜ん、刃物はこうじゃないとね。私のモーラナイフは炭素鋼製ですので、研ぎやすく切れ味抜群であるのに対して、ステンレス鋼のモノに比べて()びやすいのが難点。そこで今回は、ブレードに、黒錆(くろさび)加工を施してみる事に致しました。

 通常、鉄の(さび)はいわゆる「赤錆(あかさび)」です。Fe2O3 酸化第二鉄の事。黒錆加工とは、本来は Fe3O4 四酸化三鉄の皮膜を形成し、錆を防止する処理を意味します。スキレットやダッチオーブンをカラ焼きする、いわゆるシーズニングを思い浮かべて頂ければ分かりやすいでしょう。四酸化三鉄の皮膜を形成する為にはガスバーナ等を用いて、空気中で高温に熱して酸化させる必要があります。フライパン等の調理器具と違って、焼き入れ済みの炭素鋼ナイフを不用意にガスで(あぶ)ると、いわゆる焼き(なま)し状態になってしまいブレードの硬度が極端に落ちる結果になりますので、絶対やってはイケませんぞ。

 ナイフにおける「黒錆加工」とは、実は黒錆(Fe3O4四酸化三鉄)皮膜の形成ではなく、タンニン酸と鉄イオンの結びつきによって出来る黒色の皮膜の形成の事を指します。はっきり云って「黒錆加工」という言葉がイケないのですな。本来であれば「タンニン酸鉄 皮膜加工」と云うべきでありましょう。何故かアウトドア系の人は「黒錆加工」って云うんだよな。全然、黒錆とは関係ないのに、変なの!

 500cc程の水を鍋で沸騰させ、そこに紅茶のティーバッグを5つ程投入してよく煮出します。紅茶にはカテキン類の他、没食子酸(もっしょくしさん)エステル誘導体などの、大量のタンニン類が含まれています。この紅茶を煮出した液に酢酸を入れ、酸性に振ってやります。酢酸の代わりにレモン汁(クエン酸)を使っても構いません。この液に炭素鋼のブレードを漬けてやります。ブレード表面の鉄(正確には鉄イオン)とタンニン酸が結びつき、ブレード表面にタンニン酸鉄の皮膜(黒色)が形成されて、これが錆び防止の役目を果たすという訳です。

 貧血の薬などの経口鉄剤をお茶と一緒に服用してはイケない、というお話をお聞きになった事があるかと思います。折角摂取した鉄剤が、お茶に含まれるタンニンと、胃酸(HCl)によってタンニン酸鉄となってしまうからなのですが、ナイフのタンニン酸鉄 皮膜加工は、まさしくこの化学反応を利用しているのでありました。

 タンニン酸鉄 皮膜は、乾燥させる事で強固に沈着します。2時間程度、液に漬け込むと、ブレードは黒くコーティングされたように見えますが、乾燥前に手で触ると指紋の跡がついてしまうので注意が必要です。液から出したら24時間程度乾燥させたら完成。錆の防止だけでなく、ブラック・コーティングされたブレードは、中々格好良いモノ。炭素鋼ナイフのタンニン酸鉄 皮膜加工は、割と簡単に出来ますから、是非ともお試し下さいませ。あ、勿論、ステンレス鋼のナイフはそもそも電離しにくく、表面が鉄イオンになりませんので、紅茶で黒くする事は出来ませんぞ。

 と、まあ、ナイフをメンテする事で、キャンプに出掛けられない()さを、夜な夜な晴らしているのでありました。あ〜あ、キャンプに行きたいなぁ。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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