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 地球温暖化対策について考える(第5話:電気自動車は世界を救えるか篇) 

ーロッパを中心にEV(Electric Vehicle:電気自動車)化の波が急速に起こりつつあります。EVはそれ単体では二酸化炭素を排出しませんから、一見地球温暖化防止の救世主的技術のように感じがちです。しかし、肝心の電力が、化石燃料に依存しているかそれとも依存していないかによって、二酸化炭素排出量の削減率は大きく変わることになります。

 例えば、国内電力のほぼ100%を水力と原子力に頼っていて化石燃料を発電に一切用いていないスイスでは、EVによる二酸化炭素削減率は100%という事になります。続いて以下ノルウェー98%、フランス96%、スウェーデン95%、オーストリア93%と、ヨーロッパの一部の国ではEV化による二酸化炭素の削減率は、非常に高い数値を示します。

 一方同じヨーロッパ諸国でも、発電の化石燃料依存比率の高い国は、当然EVによる二酸化炭素削減率も低く、キプロス4%、セルビア15%、エストニア35%、オランダ37%と試算されています。

 EUでは2035年までに、すべての新車販売をEVまたは燃料電池車などのいわゆるゼロエミッション車に限定する事を決定し発表しました。ハイブリッド車も規制対象としたのです。こうした目標は一見理想的で素晴らしいモノのように見えますが、電力を化石燃料に頼っている国では逆に二酸化炭素の排出量を増やす結果になってしまいかねません。

 発電の化石燃料依存比率の低い国はEV化を推進し、逆に発電の化石燃料依存比率の高い国は無理にEV化を推進するのではなく、一旦ハイブリッド車などの燃費の良い車の導入を促して時間を稼ぎ、その間に電力の化石燃料依存を解消していくという方策を採るべきでしょう。

 また、単純な比率数値だけを見て判断するのも危険を(はら)んでいます。例えばアイルランドは全電力の実に46%をも再生可能エネルギーで賄っていますが、EV化を推進した場合の二酸化炭素削減率は、電力の94%を天然ガスに依存するモルドバと同程度に過ぎないというシミュレート結果があります。これはアイルランドが高い再生可能エネルギー比率を保っているにも関わらず、それ以外の発電を天然ガスよりも効率の悪い、石油・石炭・泥炭の火力発電(しかも旧式のプラント)に依存しているからと報告されています。

 ヒステリックに理想論を追い求める事が、最良の方法に繋がらない事は明らかです。各国のエネルギー事情を細かく鑑みて、それぞれ直近に採るべき最適な方策と、中長期的な開発目標の両方を策定するのが正しいやり方でしょう。

 EU諸国がEV化への強いこだわりを見せるのは、ハイブリッド車に関する各種の特許の多くがトヨタによって押さえられてしまっていて、今更ハイブリッド車で勝負を掛けても勝ち目がないという裏事情もあるのではないか、とも云われています。

 EVは地球温暖化を防止する上で利用可能なアイテムの一つに過ぎません。しかもその重要性は、電力インフラの整備状況によって刻々と変化していきます。最終的にEV化に進むであろう、そのベクトル自体に間違いは無いでしょうが、短絡的に現時点で全員がEV化を指向するのは、逆にシンギュラリティを早める結果にしかならない事を、我々は認識すべきでしょう。

【つづく】

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