日、「ガソリンの暫定税率を廃止する為の財源が・・・」なる発言をしている政府関係者がテレビに映っておりました。ちょっと待て。国民負担を減らす為の減税の話をしているのに「代わりの財源」って、それじゃ全く減税になっていないではありませんか。最近この手の話はとても多く、国民が何も知らないと高を括っているのかも知れませんけれども、馬鹿にするのもいい加減にして頂きたいものであります。
例えばサラリーマンとしての稼ぎで暮らしている一般家庭と、国家の財政運営を同じ土俵で語ろうとする政治家は、何も分かっていない勉強不足の方か、分かった上で皆を騙そうとする悪意を持った方のどちらかでしょう。そもそも一般家庭と、国家の財政運営は、通貨発行権を持っているか否かという面において、全く異なる存在なのであります。
一般家庭では稼ぎの範囲内で暮らしていく必要があります。収入以上に支出が多い暮らしは、借金が嵩んでいずれ破綻を期すのは道理。収入を向上させるか、支出を抑えるか、またはその2つを同時に実現するかして、破綻を防ぐ必要があります。収入と支出の比率の事をプライマリーバランスと呼びます。家庭において破綻を防ぐ為には、こうしたプライマリーバランスの黒字化は必須の要件です。ま、一般的に云うプライマリーバランスには国債の返済や利払い費を含まないのですけれども、ここは敢えて大雑把に説明する事にしましょうか。
勉強不足な政治家の先生は、この理屈を国家財政にも適用しようとしています。特に財政破綻したギリシャを例に挙げる事が多いようですが、ギリシャと日本は、1.通貨発行権の有無、2.外国からお金を借りている、という点について大きく異なるのです。
ギリシャの通貨はユーロで、これは多国間通貨ですからギリシャ一国で通貨発行は出来ません。その点日本は、お金が必要な時は一万円札を印刷する事が可能です。ギリシャはお金が足りなくなると、他国から借りるしかないので、これらの利払いが履行出来ない状態まで財政が悪化してしまったのですが、これはある意味、自分の稼ぎ以上にお金を遣い、それをサラ金からの借金で賄った為に利息が払えなくなって事実上破産した状態の家庭と、酷似しています。
そもそも日本の国家予算は徴収した税金の範囲内で組まれる訳ではない事を、我々は認識する必要がありましょう。インフラを維持し社会保障を履行出来るように予算を決定し、その分の資金を日銀に用意させます。日銀に資金を用意させる為の証文として、政府は国債を発行するのです。これは上場会社が利益の範囲内で商売をするのではなく、株式を発行する事で先に市場からお金を調達して、より大きな商売をするのに似ていますね。
こうしてまずお金が世間に出回り始めます。ある会社にとっての経費は別の会社の売り上げでもある訳ですから、こうしたお金は複層的に世間を潤していきます。様々な企業で利潤が上がり、GDPが積み上がっていき、景気が良くなります。日銀から発行されたお金は、好景気の為の起爆剤になる訳です。しかしこのままでは世間に日本円がジャブジャブに出回り過ぎてしまい、日本円の価値が下がってしまいますから、世間からお金を回収する必要が出て参ります。これが税金です。所得税にしろ法人税にしろ、儲かっているところからより多くの税金を回収するのは、当然の事。折角、好景気の起爆剤として機能していた日本円の効果を最大化する為には、お金が余っているところから回収する方がはるかに効率的ですし、金持ちがより金持ちになり過ぎる事を防止する為の、富の再分配という意味もありますからね。
ここで一旦、外国の話をしてみましょう。例えばアメリカ合衆国では給与も上がりモノの値段も上がっています。経済の規模自体が大きくなっている訳です。これは当然、世の中に出回っている米ドルの総量が増え続けているからに他なりません。日本を除くほとんどの国は、こうして経済規模を拡大し続けています。発行した紙幣よりも回収した税金の方が少ないから、経済規模が拡大しているのです。ちょっと考えれば分かるのですが、経済が伸びている国は全てプライマリーバランスが赤字になっている事に気づくでしょう。プライマリーバランスの黒字化は、経済規模の縮小を意味するのですから。
一部の政治家はこうした正常な予算執行を赤字国債と呼び「将来世代にツケを回すな」などと発言していますが、この国債は借金ではありませんから、将来世代にツケを回すも何も、これを完全に返済する事はないのです。それよりも、正常な経済規模の拡大を阻害する行為の方が、よほど将来世代につけを回す結果になるのが分からないのでしょうか。ちなみにこうした国債発行を負債として計上しているのはG7では日本だけ。そもそも日銀は政府の子会社ですから、日本政府が子会社である日銀から借りているだけで、例えばその国債の利払いによる政府の損失は日銀の利益となり、日銀は政府の子会社ですから連結レベルでは損失と利益は相殺され、損など出ないのであります。何度も云うようですが、国債を海外に買って貰っているのではないのです。先に話の出たギリシャは通貨発行権が無く、借り入れも他国から行なった点において、日本とは全く異なるのです。
日本が資源に恵まれた国であって、しかも鎖国でもしていれば、これでも問題は無いのですが、石油にしろ天然ガスにしろ他国からの輸入に頼っている訳ですから、世界中がプライマリーバランスを赤字に保ちジワジワと経済規模が拡大させている中で、日本だけがプライマリーバランスに拘り、同じ経済規模を保ち続けている現在、円ベースでは石油も天然ガスも相対的にどんどん値上がりしていってしまいます。そのツケは運送費にもコメの値段にも跳ね返ってくるでしょう。こうしてどんどん家庭の可処分所得は減り、日本の景気は悪くなり、経済規模は縮小していきます。
政府の取り得る政策は大きく2つ。予算を動かして市中に出回るお金をコントロールする事。もう一つは税率を動かして市中に出回るお金をコントロールする事。現在の政府は予算を減らすと同時に税金を上げて、両面からお金の流通量を下げようとしています。彼らの言い分は一貫していて、これをインフレ対策の為だと云うのですが、今の日本はコストプッシュインフレなだけで、モノの値段は下がっています。だってそうでしょ、海外から見たら日本はモノが極端に安いから海外からたくさんの観光客がやってきているんですよね?!良いですか!日本はモノの値段が安いのです!!
変な補助金など配ってないで、1.予算を増やして市中にお金を回す、2.減税をして市中にお金を回す、結果、これらの方策で景気を上向かすと同時に、プライマリーバランスを赤字化する事で日本の経済規模を拡大するのが、将来の為に政府が今こそ取り得るオプションでありましょう。
昔の名残で日本が今でも工業輸出国であるかのような錯覚に陥っている方も多いように思いますが、今や日本の主力は海外への投資にシフトしています。相対的に日本経済が弱くなり円安に振れた場合、工業輸出国であったかつての日本であれば円安は順風となり得たかも知れませんが、今やそんな状態では無くなってしまいました。我々の中でお金を回す、いわば内需を拡大させる事が我々に残された生きる道なのです。
そういう目で見直すと、現政権はセオリーに対して全て逆張りをしている事が分かります。消費税とはお金を遣う事に対する罰金が10%である状態と同義である事を忘れてはなりません。消費税を下げようとすると「その分の財源が・・・」と的外れな事を云いますけれども、景気を良くしたければ、予算を増やして市中にお金を流せば良いのです。云うに事欠いて、「元々たくさんお金を遣っていたお金持ちはたくさん消費税を負担していた訳で、消費税の税率を下げたりゼロにしたりすると、こうしたお金持ちばかりが得をしてしまって不公平になる」、とか云い始めるではありませんか。笑止。あのですね、2万円の補助金を配っても2万円遣って終わりなのですよ。でもね、消費税を下げればお金持ちはここぞとばかりに、レクサス買ったり別荘買ったりするでしょう?ある人にとっての経費は別の人の売り上げでもある訳ですから、こうしたお金は複層的に世間を潤していくのです。
云うに事欠いて時給アップを公約にする政治家まで現れました。根本的なお話で恐縮ですけれど、給与を上げるかどうかは政府が決めるモノではなく、それぞれの会社が決めるべき話。政府には予算を増やすか税金を下げるかしかオプションが無いのですよ。ちょうど今、各大学は夏期休暇に入っていて教室が空いていますから、政治家の先生は経済の基礎について、是非とも夏期集中講義を受けて貰いたいものであります。
財政健全化とかプライマリーバランスの黒字化を謳う政治家がいたら、その方が勉強不足であるにしろ、悪意をもって発言しているにしろ、警戒しつつお話を聞いた方が良さそうです。
【続きをお楽しみに】
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