し前の話であります。夏の繁忙期の真っ最中に、仕事で使っているメインPCが突然壊れてしまいました。症状から考えますと恐らくはCPU基板の接触不良だと思われます。修理よりも買い換えた方が安くて早い案件ですね。6年ほど運用しておりましたから、十分元は取れましたし、いわば寿命というヤツでしょう。
私は乙女座のA型でありまして、その持ち前の過剰な程の臆病さを発揮して、何重ものバックアップを取ってありましたので、仕事のデータで失われたモノは一つもありませんでした。そもそもメインデータはRAIDディスクでミラーリングされている上に、NASにディリーでバックアップされておりましたからね。データさえ保全されていれば、基本的に仕事に致命的な支障は出ないもの。新しいマシンをDELLに発注し、それが到着するまではサブマシンであるDELLのノートPCで仕事をしていたのでありました。
論理的には仕事に支障は出ない筈とは云え、作業効率は著しい低下を余儀なくされました。元々私のメインマシンは4Kモニタを4台接続した、広大な作業エリアを誇っていたのですが、それに比べるとノートPCの作業領域の狭さと云ったら!複数のファイルを立ち上げても、切り替え切り替えしなければならず、一覧性がありませんから、作業効率はガタ落ちなのでありますよ。
更にOracleDBにアクセスする各種トランザクションは、ほとんどが私の自作プログラムで構成されていて、特にカスタマの希望日程と担当スタッフの勤務希望を元に様々な条件を勘案しつつ最適なマッチングを図るルーチンなどは、一部にAI的な再帰的機械学習処理を採用しており、ポンコツ・ノートPC程度の処理能力では、どうにもなりません。カスタマの急なキャンセル時や、スタッフの突発的な病欠など、再スケジューリングが必要な際に、こうしたマッチング用の自動処理が走らないのは、相当イタいのであります。多変量解析が絡む複雑な再スケを、今更、鉛筆ナメナメ考えるのは大変な苦労。ニューマシンが早く到着しないかなぁ。
DELLに発注したニューマシンは以下のようなモノ。分かる人は分かると思いますが、PC小僧などから見れば、まさに垂涎のハイスペック・マシンであります。
- プロセッサ:第13世代 Core i9-13900KF(24コア 68MBキャッシュ Velocity Boost最大5.6GHz)
- メモリ:64GB DDR5 4.8GHz メモリ(オーバークロック最大5.2GHz)
- グラフィックボード:NVIDIA GeForce RTX4090 24GB GDDR6X
- ストレージ:1TB SSD + 2TB HDD
仕事で使うPCに高価なグラボなんか積んで、オフィスで3Dゲームでもする心算かよって考える方もいらっしゃるでしょうね。グラボはゲームの為では無いのですよ。じゃあ、何でNVIDIAのグラボなんて買ったのさ、と不思議がる気持ちも分かります。これね、多変量解析が絡む複雑な再スケジューリングを行なう自作プログラムが、CUDAで書かれているからなのですよ。
CUDAはNVIDIAから提供されているGPU向けのC++統合開発環境の事。インテルのCore-i9のようなCPUはいわゆるCISCチップ(Complex
Instruction Set Computer:複雑命令セットコンピュータ)です。マルチメディアや数値演算コプロセッサを含む様々な演算回路を持った多機能プロセッサになります。対してNVIDIAのGPUはいわゆるRISCチップ(Reduce
Instruction Set Computer:縮小命令セットコンピュータ)です。非常に簡単な命令セットしか持たない反面、コア数も多く処理も非常に高速なのです。勿論、GPUのフル機能を引き出す為には、並列処理を意識したコーディングが必要ではあるのですが。
年にもよりますけれども、今年の夏の繁忙期における、カスタマの希望日程と担当スタッフの勤務希望を元に様々な条件を勘案しつつ最適なマッチングを探る為に、2.9×1024 通りの組み合わせの中から最適解を探る処理を走らせる必要がありました。こうした、「処理自体は単純な繰り返しに過ぎないが高速な動作が求められる場面」では、NVIDIAのGPUのようなRISCプロセッサの方が、インテルのCore-i9のようなCISCプロセッサに比べて、圧倒的に有利なのであります。ま、Core-i9も一般的には十分爆速なのですがね。
聞くところによりますと、かのChatGPTも機械学習にはNVIDIAのGPUを用いているそうでありますよ。やっぱ単純な繰り返し処理はRISCプロセッサに限るという訳ですな。
インテルのCore-i9が、開発時にMicrosoftのWindows10/11との動作互換性を徹底的に検討されているのに対して、NVIDIAのGPUは、元々の出自が単なるグラフィック処理デバイスに過ぎませんから、型番毎に異なるドライバを用意する方式で供給されており、いわゆる共通のOS(Operating
System)という概念がありません。簡単なAPIが用意されているのみ。従いまして、異なるGPU間でのソフトウエア互換性を保つには、それなりの工夫や手直しが必要になります。
ニューマシンは発注から約3週間で無事到着。Microsoft Office製品などの既存品のインストールは簡単でしたが、こうしたCUDAで書かれた自作プログラムは、思った通り、単なる再コンパイル等では正常に動かず、システム機能の完全な復帰には、ニューマシン到着から更に2週間ほど掛かってしまいました。
それにしても新しいマシンは良いですなぁ。水冷は非常に静かですし、そもそもCore-i9も第13世代ともなれば相当な速さ。DDR5メモリを64GBも積んでおりますので、EXCELやPowerPointなんぞ全くストレス無く動作致します。更に特筆すべきはNVIDIA
GeForce RTX4090の驚きの処理能力でありまして、世のパソコン少年たちは、こんな大層なデバイスを3Dゲームのポリゴン処理の為だけに使っているのですから、逆に贅沢なお話。
これだけの強力なマシンリソースを、私のような個人事業主が普通に使えるようになったとは、いやはや凄い時代が到来したものであります。
【つづく】
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