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  アイドリングストップ機構の意味  

 徒然

「アイドリングストップ・OFF」スイッチ

 近、車を買い換えました。やっぱ新車は気持ち良いですな。ところが、どうしても馴染めないところがあって困っているのですよ。それはアイドリングストップ機構であります。

 一定の条件(エンジンが十分に暖まっている状態で、ギアをDレンジに入れたまま停止する等)を満たすとエンジンを自動停止し、アイドリングストップ中にブレーキを解放すると、自動的にセルが回りエンジンが再稼働する仕掛け。確かに以前に比べればだいぶスムーズになりましたよ。しかしエンジン始動時には一々セルが回る訳で、一瞬とは云えタイムラグの存在は否めません。

 右折待ちでアイドリングストップし、対向車線の流れが途切れたタイミングで右折を開始しようとした際の一瞬のタイムラグには、未だにドキリと致します。右折時にアクセルレスポンスにタイムラグが発生するのは、安全面から見ても致命的と申せましょう。

 確かに短時間とは云えエンジンを停止する訳ですから、多少なりともガソリン消費は抑えられる気もしますし、故に二酸化炭素等の温室効果ガスの排出は少なくなりそうな感じがしないでもありません。

 しかしこうした似非(えせ)サステナブル技術は、多くの場合逆に環境負荷を大きくしてしまう事を、忘れてはならないと思うのです。かつて云われた、蛍光灯はこまめに消す方が結果としてエネルギーを使ってしまう、という話を思い出します。蛍光灯は点灯開始動作で非常に多くの電力を消費するとともに、蛍光管や制御基板への負荷が高く、機器の寿命を縮める原因となる事が広く知られています。蛍光灯のこまめなオン・オフは自己満足的な意味しか無く、逆に多くの電力を消費し、しかも機器を痛めるという点は、アイドリングストップ機構に似ているではありませんか。

 さて、アイドリングストップ機能の悪影響を一つ一つ洗い出してみる事にしましょう。

 まずはバッテリへの負荷及び寿命短縮の問題です。一般的に自動車において最も多くの電気を一気に消費するのは、セルモータを回してエンジンを始動する瞬間です。ちょっとした停止の度にエンジン再始動を繰り返していたら、バッテリへの負担は非常に大きくなってしまうのは自明。またバッテリ上がりを防止する為に、ジェネレータ(発電器)の容量(発電量)も大きくする必要があり、ジェネレータは発電用の電磁石とコイルから成る機構で、しかもこれを回すのはエンジンですから、容量の大きなジェネレータを回す為にエンジンは余分なパワーを割かねばならず、結果として燃費低下に直結します。

 続いてセルモータの寿命の問題です。ハイブリッド車のモータと違って、始動専用のセルモータは元々それ程頻繁に使う事を前提に設計されていません。勿論、アイドリングストップ機構の導入に合わせて何らかの機能補強はされているでしょうけれども、従来品に比べて寿命が短くなるのは否めますまい。セルモータにはコイルや金属製シャーシや強力な磁石が用いられていて、その製造に金属を融かす工程が必須な事からも、セルモータの寿命を縮めるような使用法は、二酸化炭素の排出量を増やす事に直結してしまう事は明白と云えましょう。

 更に、排ガスの毒性も大きな問題です。最近のエンジンはキャブレタによるアナログ燃焼管理ではなく、EFI(Electric Fuel injection:電子制御燃料噴射装置)によるデジタル制御ですので、エンジンが掛かっている間は理想的な燃料量にコントロールされ、酸素濃度センサからの情報を元に安定して燃焼が行われます。ところが3気筒や4気筒の4サイクルエンジンでは、各気筒毎にタイミングをずらしながら、吸入・圧縮・爆発・排気を行ないますから、始動時には、気筒によっては行程の途中から始まらざるを得ない以上、エンジン始動のタイミングでは全ての気筒で理想的な燃焼を行うのは事実上不可能。燃え残りの生ガソリンが排出されることになります。結果としてこうした生ガスは高温の排気管の中で燃える事になり、有害な窒素酸化物(NOx)の排出に繋がってしまうのです。窒素酸化物は環境中で硝酸(HNO3)に変わり、酸性雨の原因となる事が知られています。植物を枯らし光合成を阻害するという意味で、窒素酸化物は間接的に二酸化炭素の増加に加担してしまうのです。バイクに乗っていると前の車がアイドリングストップから再始動する瞬間に、排気管から煙状のガスをブホっと排出するのを見る事が出来ます。めっちゃ臭いんだよな、アレ。

 エンジンオイルへの影響、ひいてはエンジン本体への影響も深刻です。陸上競技で考えれば分かると思いますが、全力で走ってきた選手がいきなりパタリと停止するのは循環系に大きな負荷が掛かるのは自明でしょう。クールダウンの為の軽い駆け足は必須。エンジンも同じで、エンジンを停止すればオイルの流れも冷却水の流れも同時に止まってしまいます。アイドリングストップによるエンジンオイルやエンジン本体への影響は深刻です。エンジンオイルは潤滑機能の他にエンジンの冷却機能も担っていますからね。

 スポーツタイプの車のユーザの中には「ターボタイマ」と呼ばれる装置を後付けしている人が居たものです(最近でも居るのかな?)。エンジンが熱い状態でいきなり停止するとエンジンオイルや冷却水の循環も止まってしまい冷却に支障が出てしまいます。かと云ってエンジンが冷えてくるまで車内で待つのも面倒くさい。そこでタイマで数分間アイドリングさせた後に自動的にエンジンを停止させる仕組みが流行ったという訳。アイドリングストップはこれに逆行する仕掛けとも云え、エンジンやエンジンオイルへの悪影響は計り知れません。

 一見エコっぽくて耳障りの良い、このアイドリングストップという機構ですが、実際には百害あって一利無しである事が分かります。元々はエコカー減税を享受する為に装備された、多分に政治的な機能であったようですが、エコカー減税が終了してしまった今、完全に無用の長物になってしまいました。故障しやすく、運転上も危険で、環境への負荷が大きいなんて、最悪です。しかも未だにアイドリングストップがエコやSDGsに寄与していると信じて使っていらっしゃる方が一定数存在するというのも大きな問題でしょう。

 多くの車には「アイドリングストップ・OFF」スイッチが装備されています。このスイッチを入れる事で、アイドリングストップ機構が働かないように出来るのです。ところがこのスイッチ、アイドリングストップをOFFにしても、一度エンジンを止めると次回始動時には、アイドリングストップが効く設定に戻ってしまうのです。乗る度に一々スイッチを入れないといけないとは、まったく面倒なモノを作ってくれましたなぁ。

 という訳で、安全や温暖化防止やエンジンへのいたわりを考えるのであれば、乗車時に一々「アイドリングストップ・OFF」スイッチを押すようにしましょうね。あ、ちなみにうちの車は一々「アイドリングストップ・OFF」スイッチを押すのが面倒なので、ECUの制御ソフトをちょいと(だま)して、デフォルトがアイドリングストップ・OFFになるように改造しちまいましたがね。Copyright (C) by Yas / YasZone

【つづく】

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