売1ヶ月前からアマゾンでのランキングで1位をキープしたり、発売前に増刷しそれも含めて発売時点で35万部リリースしたりと、百田尚樹著「日本国紀」(幻冬舎)が、出版不況の昨今にしては稀な売り上げを記録しているようです。かく云う私もアマゾンに事前予約を入れ、発売日に初版を手に入れました。
縄文・弥生・古墳・飛鳥・奈良・平安・鎌倉・室町・戦国・江戸・明治・大正・昭和・平成と、日本の通史として主たる流れについて一気に書かれている本書ですが、一般的な歴史教科書の記述と異なる論を展開している部分も多数存在します。ネットでの評判は完全に二分されている感じで、べた褒めする読者も居れば、根拠のない偏った記述だとする否定意見もあり、ある意味、中々盛り上がっているようです。
そもそも歴史認識について国籍や立場によって解釈が異なる点が存在するのは、ある意味当たり前の事。それを一々「ソース出せ」(情報の出所を明らかにせよ)と突っかかるのも、読者として少し大人げないような気もしないではありません。ただし作者である百田氏がかなり煽っているのも事実で、発売前の11月3日(土)付けでTwitterに以下のようなツイートを流しています。
『日本国紀』が発売されたら、歴史学者から批判が殺到するはず、と期待するアンチが多いが、彼らの期待は裏切られる。なぜなら『日本国紀』に書かれていることはすべて事実だからだ。ただ、その事実の多くが、それまでの歴史教科書には書かれていなかったということだ。 |
「日本国紀」という書名が大仰な為に突っ込みどころ満載なだけで、例えばタイトルを「私家版・日本国紀」とするだけで、かなり印象は変わると思います。ま、敢えて強い表現を用いるのも、百田氏流の広告宣伝の一環なのかも知れませんが。
ペイトリオット(愛国者)とナショナリスト(民族主義者・国粋主義者)を明確に区別しない風潮の強い集団に対して、「日本国紀」を提示する行為は、右翼的な意見の発露と捉えられがちなのは想像に難くありません。しかしあまりカリカリせずに、一つの解釈としての日本の通史、または一種の歴史小説として読む分には、楽しく読む事の出来る作品ではあります。それにしても特に明治以降の記述については、虎ノ門ニュース的と云うか、月刊HANADA的と云うか、独特の雰囲気はプンプン匂いますから、この手の論が苦手な方には、あまりオススメ出来ない一冊でもあります。
【つづく】
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