柱に括り付けられている立て看板。商業目的のモノに混じって、役所や警察署や地元の自治会が設置した標語をメインとしたモノもよく目に致します。こうした看板のうち、私が近所で見つけたちょっと風変わりでトンチンカンなモノをご紹介させて頂こうと思います。
トップバッターは高尾にほど近い八王子市廿里町に設置されている立て看板です。西浅川に沿って高尾山に向かうルート上、昭和天皇陵の脇を抜けていった先の裏道に設置されております。
高尾安協と書かれているこの立て看板、高尾警察署管内の交通安全協会が設置してモノでありましょう。手書きの文字で「此の先道巾狭し対向車は道を譲って下さい」と書かれています。対向車にお願いしてどうしようと云うのでありましょう(笑)。そもそもこの看板、こちらを向いていますから、対向車には見える筈もありません。犯してしまいがちなミスではありますけど、これは対向車「に」の間違いでしょうなぁ。「この先」を「此の先」、「道幅」を「道巾」とするあたり、想像するにこの看板は割とご高齢の方によって書かれたものではないでしょうか。少なくとも若い方の作ではなさそうです。
私の知る限り、この看板は西浅川沿いの道路2箇所に、5年以上前からずっと設置されています。近所の方もこうした恥ずかしいミスに当然気付いていらっしゃると思うのですが、作成者がご近所の顔役の為、ミスを指摘する事もましてや撤去を提案する事も出来ずにいるのではないかと、勝手に想像しております。
続いてご紹介するのは、日野市程久保の明星大学近くの、小学校の通学路に設置された立て看板です。「飛び出すぞ!!子供は急に止まれない」と書かれているこの看板、日野市、日野警察署、日野防犯協会、明星前自治会の連名となっています。高尾の廿里町の手作り感満載のモノと異なり、ゴシック体でしっかりデザインされていて、業者に発注して作らせたと思われます。だとすると想像以上の広範囲に渡って設置されている可能性もありそうです。
文言から考えるに、このメッセージは自動車のドライバーに向けられたものでありましょう。これと良く似た語感の歩行者向けの有名な標語に「飛び出すな!!車は急に止まれない」というのが御座いますけれども、おそらく件の立て看板は、この有名な標語を敢えて捩ってみる事で、注目を集めようとしたのかも知れません。
車には空走距離や制動距離が存在し、瞬時に止まれないのは明白なる事実であります。実際のところ、物理学的に云えば、制動距離ゼロで停止する行為はコンクリの壁にぶつかって停止するのと同等の反作用を覚悟する必要があります。運動量と力積の保存則、Ft=mv
の式で考えますと、動いている物体が t=0、すなわち瞬時に停止すると、力 F は無限大になってしまいます。つまり、まさしく標語の通り、「車は急に止まれない」のであります。
じゃあ、どうせ瞬時に止まれないのだから、何も考えないで運転しても良いのかと云えば、それは違います。自動車の運転者は周りの状況を把握し、臨機応変に安全運転を実行する義務を負っているのです。交通弱者・強者という考え方からすれば自動車は走る凶器でもある訳で、こうした安全運転義務は当然の事と申せましょう。しかしいくら運転者が気を付けていても車は急に止まれないのですから、歩行者はこうした特性を理解した上で、飛び出しをしないようにしなければなりません。
それにしても件の看板の表現は常軌を逸しています。「飛び出すぞ!!」というのは運転者に対する脅迫であり、一種のテロリズムでありましょう。これでは当たり屋と変わらないではありませんか。ましてやこれを設置した日野市、日野警察署、日野防犯協会、明星前自治会は、子供たちに対して、「危ないから絶対に道路に飛び出してはいけないよ」と教育的指導を行なう立場にある筈。「子供は飛び出しても仕方がない存在である」と子供たち本人が認識しかねない表現の看板を、しかも通学路に設置するとは、全く何を考えているのでしょうか。下手すりゃ、飛び出す事を肯定しているどころか、推奨しているようにすら感じられます。
既成の標語を捩ってユーモアを取り入れようとする試み自体は悪いとは思いません。しかしここまで来るとちょっとネ。それにしても日本語って難しいですなぁ。
最後は、日野市南平鹿島台に設置されている「自警団パトロール中」と書かれた立て看板です。日野警察署、日野防犯協会、鹿島台自治会の連名となっています。自警団を組織しなければ安全が確保出来ないほど荒んでいる訳では決してありません。逆に鹿島台は一戸建が建ち並ぶ閑静な住宅地であります。我が程久保基地もそうですけれども、一戸建住宅って死角や隠れる場所が多いので、少なくともマンション等に比べれば、空き巣に対して脆弱である事は間違いないんですよね。立て看板の設置は、こうした空き巣への牽制の為でありましょう。
文言自体は良いのです。問題はイラスト。看板の作成者は、自警団をイメージしたつもりでしょうが、サングラスをして警察官っぽい服を着たところなど、偽警官そのもの!実際にこんな格好をした人が住宅街を彷徨いていたら、それこそ怪しいというものであります。「自警団パトロール中」ではなく、「偽警官に注意!!」という看板だったらピッタリなイラストなんですけどね。
近所をちらっと回っただけで、これだけ風変わりでトンチンカンな立て看板が見つかりましたよ。真剣に調査範囲を広げれば、立て看板というネタだけで本が一冊書けちまいそうでありますなぁ。
【つづく】
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