代のアニメーション作家、新海誠監督の作品のあの透明感のある絵が大好きで、氏のアニメーション作品は全て観ております。ストーリーも映像表現も素晴らしいの一言。氏の作品について一つだけ難点を挙げさせて頂くとすると、その短さでありましょう。予算の関係なのかも知れませんが、もう少し尺を確保し、ストーリーのディテールにまで言及してくれれば、より深く作品世界に浸る事が出来るのですが。
昨年の5月にかみさんと劇場で観た「言の葉の庭」。劇場公開版でありながら、たった45分しかないショートストーリーであります。この作品、特に水の表現が素晴らしく、とても感動致しました。短いながらも、私もかみさんも大満足だったのであります。ところが今年の4月に出版された、新海誠著「言の葉の庭」(角川書店)を読んでみたところ、その小説としてのレベルの高さに衝撃を受けました。映画では触れられる事の無かった様々なエピソードが幾つも挙げられているとともに、登場する人物それぞれを主人公とした、連作短編小説の体を取っていたのであります。それでいて映画のストーリーの本質が崩れる事は一切無く、いわば映画では言及しきれなかったエピソードを満載した小説であった訳です。
実は新海誠著のノベライズ小説は、「言の葉の庭」が最初ではありません。新海誠著「小説・秒速5センチメートル」(メディアファクトリー刊)も中々の出来ではありましたけれども、これについては映画の内容を忠実にノベライズしたものに過ぎず、新たなエピソードの追加などは、ほとんど行なわれなかったのであります。ま、普通のノベライズ本はこんなものでありましょう。しかし今回、小説版「言の葉の庭」の出来の良さにあまりにも感動したものですから、他のノベライズ本も読んでみる事にしました。
新海誠原作、加納新太著「雲の向こう、約束の場所」(エンターブレイン刊)。新たなエピソードの追加などは有りませんでしたが、作品のディテールに対する言及が非常に深いところまでされています。私、この「雲の向こう、約束の場所」のDVDを既に3回ほど観ている筈なのですけれども、小説版を読み終えた後DVDを観直してみると、今まで意識していなかった部分に、様々な伏線が見えてきたではありませんか。これはスゴいや。
映画の後に作られる小説版、いわゆるノベライズ本を、今まで軽視してきた傾向は否定出来ません。しかし、あたかもハリーポッターの原作を読んでから映画を観るとより細かい伏線まで見えてくるのと同様、新海誠作品のノベライズ本は、非常にクオリティが高いのでありました。それだけ、映画制作の為のストーリープロットが、しっかり造り込まれていたと云うことなのでありましょう。
現在は、新海誠原作、加納新太著「ほしのこえ」(エンターブレイン刊)と、新海誠原作、永川成基著「彼女と彼女の猫」(カンゼン刊)を取り寄せている最中です。嗚呼、それにしても単行本って高価ですなぁ。今月も書籍費が幾ら掛かるのやら・・・。
【つづく】
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